最高の〝本物〞にこだわる老舗のワイングラス
2017年4月にオープンした銀座の新スポット「GINZA SIX」。最上階に「てんぷら山の上 Ginza」がオープンした。
ワインとのペアリングを提案するなど、和食文化の伝統を守りながら革新的なおもてなしを目指す、その極意を探った。
2020年の東京オリンピックを見据え、国際的な商業都市として進化し続ける銀座。その中心に誕生した「GINZA SIX」は、銀座の新時代の幕開けとして注目されている。この一等地に、創業63年の「山の上ホテル」が、新しいおもてなしを届ける「てんぷら山の上Ginza」を構えた。
「銀座という老舗が並ぶ土地柄、そしててんぷらをお出しする店ですから、旬の食材へのこだわりは言うまでもなく、お酒に関しても厳選したものをそろえています。日本酒や焼酎、ワイン、さらに中国茶なども新しく取り入れています。中でもワインは、シャンパーニュから白、ロゼ、赤のグラスワインを全7種類ご用意するなど、ワインコースとしても楽しめるように考えました」と語るのは、料理長の寺岡正憲氏。
今でこそワインをそろえる和食店は珍しくなくなったが、寺岡氏は10年前から同店の六本木店でワインを積極的にオンリストするなど、和食とワインの相性を熱心に探ってきた。
ソムリエの認定資格を取得するなどワインへの探究心が高く、その志に触発されたスタッフも多いという。
実際、若手を中心としたスタッフたちは利き酒師の資格を取得したり、ワインのセミナーを受講したりするなど、一人一人の意識が高い。
お店のこだわりは、食材やメニュー、サービス意識の高さに限らない。入口から暖簾(のれん)をくぐるまでの短いアプローチには、茶屋をイメージした繊細な組子文様のしつらえが、そして店内に足を踏み入れると銀座の喧噪から一気に静謐な空間へ導かれる。
川端康成、三島由紀夫、池波正太郎など多くの作家に愛され、「一期一会」を大切にする山の上ホテルらしい落ち着いた佇まいだ。昔ながらの「氷の冷蔵庫」を目の前にするカウンターは、樹齢250年の貴重な檜の一枚板。フロアに並ぶテーブルとイスは無垢材から創られた特注品が並ぶ。床材の艶消しのタイルは、瓦に使う素材を1枚ずつ切り出したもので、天井には照明の光の反射を和らげるために漆喰を塗っている。
道具としてワイングラスを
「料理をいかに楽しんでいただくかと同じで、酒器に関しても材質から選んだオリジナルのものを提供しています。例えば酒器は錫(すず)製のものもあり、これで飲むと口当たりがひんやりとして締まった味わいになり、お酒がいっそう美味しく感じられます。またワイングラスはリーデルグラスの『リーデル・ヴェリタス シリーズ』をそろえています。ブドウ品種ごとに最適な香りや味わいが楽しめることや、当店のテーブルにぴったりはまるサイズ感などが選んだポイントです」と寺岡氏。
料理に合わせて一品ずつ器を変えるように、ワインの特徴に合わせてグラスを選ぶことも重要だ。
フロアキャプテンの倉津欽志郎氏は「飲み口の部分が薄く、ワインを飲む時の口当たりがいいことと、ステム(脚)が長くスリムで美しいデザインがお客さまからも好評です」と話す。ホールを担当する増田香奈さんは「円形の台座の部分がやや大きめですから、注文を受けてテーブルに置く時の安定感がいいですね」と、サービスの目線でも評価している。このサービス意識の高さがなければ、ワイングラスの機能性や特徴を心に留め置くこともない。
そういう意味で、道具としてワイングラスを上手に使い分けている店は、満足度の高いサービスを提供しているといえそうだ。
料理の温度と食す時間まで配慮する
「料理とワインの組み合わせに、形やマニュアルがあるわけではありません。てんぷらは揚げたてを出し、熱々のうちに召し上がってもらう料理です。例えば、白ワインを出す場合はよく冷やしておいて、やや大ぶりのグラスを使うこともありますね。というのも揚げたての1品を食べる時間は短かいですから、その時間に合わせてワインのいろいろな香りや味わいを一緒に楽しんでもらいたいという思いがあります。大ぶりのワイングラスなら、それが可能ですね」
冷えた白ワインを大ぶりのグラスで出した場合は、一口目と二口目を飲む時のわずかな合間にワインの温度が上がって香りや味わいが変化する。ワインを口にする温度変化のタイミングまで計り、いかに旬の食材の旨味や鮮度を引き立てようかと考える。こうした繊細なサービスを実践できる環境が整っていることが、おもてなしの伝統を受け継いできた老舗の名店たるゆえんでもある。