2020/10/26
WineColumn
【ワイナリーへ行ってみよう Vol.1】「世界30位、アジアNo.1」シャトー・メルシャン椀子ワイナリーの魅力(1)
「ワイナリーツアー」と「ディズニーランド」
みなさんはディズニー映画を観たことがありますか?
「アラジン」「美女と野獣」「リトルマーメイド」などなど名作ぞろいです。
いちども観たことがない、という方のほうが少ないかもしれません。人によっては相当数の作品を観たことがある人もいるでしょうし、僕の知人には「好きな作品はこれまでに何十回と観た」というツワモノもいます。
この「ディズニー映画という作品」を「ワイン」だとすれば、その映画に出てくるキャラクターに出会えたり、作品の世界観を実際に体験できるのが「ディズニーランド」。完成した映画作品を画面上で観るだけではなく、自分がその映画世界に入り込んで、非日常的な時間を過ごすことのできる、まさに「夢の国」です。
ワインの原料となるブドウが育った土地で、同じ空気を吸いながら、そのブドウを育てワインを醸造した生産者の声を聞きつつ、ワインを楽しむことができる。ワインにとっての「ディズニーランド」的な存在が、ワイナリー、そしてワイナリー・ヴィジットなのかもしれません。
僕たちリーデルでは、これまで何回かのオンライングラス・テイスティングを行なってきましたが、いずれもリーデルショップやテイスティングルームからの配信でした。
今回、11月22日(日)に予定されている「オンライン特別セミナー from 椀子ワイナリー」では、初めて実際にワイナリーを訪れ、その場からセミナーをお届けする予定です。ワイナリーの空気感をみなさんの元に届けることができれば嬉しいです。
これから3回にわたり、国内外からから注目を集める「椀子ワイナリー」について、そして11月22日の特別セミナーをより一層お楽しみいただけるような情報をご紹介してゆきたいと思います。
日本ワイン業界に激震走る!
2020年7月。日本のワイン業界に激震が走りました。
椀子ワイナリーが、ワイン観光に取り組む世界のワイナリーを評価する「ワールズ・ベスト・ヴィンヤード」において、世界30位、アジアNo.1に選ばれたのです。
この「ワールズ・ベスト・ヴィンヤード」は、素晴らしいワインを味わい、ワイン造りやブドウ栽培について学び、美しい景色と忘れられない体験ができる世界のワイナリートップ50を、世界のワイン、食、旅行業界を中心とした計500名以上の専門家により選出するというアワードです。
ただ単に「個々のワインの出来栄えを評価する」という品評会ではなく、実際にワイナリーを訪れ、そこでどのような体験ができるのか、その環境やホスピタリティも含めて評価されるのです。
実際、椀子ワイナリーでは、充実したワイナリーツアーのメニューが用意されています。ヴィンヤード見学や、ワイナリースタッフの解説を聞きながらの試飲、そして地元の食材を活かしたランチBOX(要予約)を楽しむこともできます。
(ワイナリーツアーについての詳細は、椀子ワイナリーの公式サイトをご確認ください)
▼椀子ワイナリー 公式サイト
https://www.chateaumercian.com/winery/mariko/
訪問当日は、「オムニス・ルーム」でヴィンヤードを眺めながら5種類のワインを試飲(テイスティングメニューはワイナリーツアーによって異なります)
この「ワールズ・ベスト・ヴィンヤード」には、世界の錚々たるワイナリーが選出されています。
例えばリーデルと同じオーストリアからは、ドメーヌ・バッハウ(3位)が。その他、モンテス(4位)、ロバート・モンダヴィ(5位)、オーパス・ワン(20位)、シャトー・マルゴー(22位)、ペンフォールズ(24位)、テタンジェ(28位)、ビルカール・サルモン(29位)、シャトー・ディケム(31位)、シャトー・ムートン・ロートシルト(33位)。一度は訪れて、現地でワインを楽しんでみたいワイナリーばかり。
その中で、椀子ワイナリーは世界30位、アジアNo.1ワイナリーに選ばれたのです。
それでは、日本が世界に誇る「椀子ワイナリー」のワイナリー・ツアーに出かけましょう。
椀子ワイナリーへ
イベントに向けての事前打ち合わせのため、9月某日、チームリーデルは椀子ワイナリーへむかいました。
東京駅から北陸新幹線に乗り上田へ。上田からは、風情豊かな在来線しなの鉄道に乗り換え、ひっそりと佇む大屋駅で下車。駅からタクシーでワイナリーに向かいます。
駅を出たタクシーは程なくして千曲川を渡り、静かな市街を抜け、最後に小高い山を登るように坂道を登って行きます。
道路脇にブドウ樹が見え始めたな・・・と思った次の瞬間、広大なブドウ畑が視界に飛び込んできます。ここが、椀子ワイナリーです。
タクシーを降り、ワイナリーを背にブドウ畑を眺めると、千曲川を挟んだ向こう側、浅間山の裾野に今注目の東御エリアを見はるかすことができます。ここには、ヴィラデスト・ガーデンファームアンドワイナリー、リュードヴァン、はすみふぁーむ&ワイナリーなど、日本を代表する錚々たるワイナリーが点在しています。
椀子ワイナリーはその対面、元は陣場台地と呼ばれた小高い丘に建つワイナリーを囲むように、畑が広がっています。
出迎えてくれたチーム椀子
この日は、早朝3時からソーヴィニヨン・ブランの深夜収穫が行われたそうで、タイミングよく収穫後の作業の一部を見ることができました。
ブドウ畑から収穫されたブドウは、ここ「レセプション」に集められ、ここで、選果、除梗、破砕します。さらにブドウは、エアープレスで優しく絞られ、その果汁は、階下にある醸造エリアに降りてゆきます。
なぜ「降りて」ゆくのか。これが、グラヴィティフロー方式という、果汁に余分な負荷をかけないよう、醸造作業が上階から階下に向かって進み、重力による自然な流れで果汁が移動してゆくように設計された、椀子ワイナリーの特徴です。
階上にある「レセプション」から撮影した、階下の醸造エリア
ワイナリー長の小林さん曰く「2021年の収穫の時期にワイナリーにお越しいただければ、畑の景色も素晴らしいですし、この醸造作業なんかもご覧いただけるので、ぜひお越しいただきたいですね」とのことでした。
ワイナリー長の小林弘憲さん(左)と庄司。この時期はマスクしてましたね。背後には、ワイナリーを見下ろす高台にある一本木公園の桜が。
除梗、破砕の過程から、すでに周りには清々しく青々しい香りが、搾汁の機械からは甘いブドウの香りが漂っています。これぞ、ワイナリー訪問の醍醐味ですね。
しかも、特別に試飲させていただいたソーヴィニヨン・ブランのフリーランジュース。これがめちゃくちゃ美味しい。
普通のブドウジュースが煎茶だとすると、このフリーランジュースは濃茶。甘くて味わいに厚みがあってジューシーで。それでいて「まさにソーヴィニヨン・ブランだ!」という風味が鼻に抜け、余韻に程よい苦味が浮かんできます。
雨が避けて通る土地
椀子ヴィンヤードの開園は2003年。東京ドーム6個ぶんにも相当する広大な土地ながら、当時は、遊休荒廃地化も進み、さらに地権が細分化されていたため、まとまった栽培地としての土地の取得には大きな苦労があったそうなのですが、上田市の協力もあり、ついに自社管理畑としてブドウ畑へと転換することができたそうです。
ヴィンヤードを巡りながら説明を受ける際に、「うわーっと雨が降る時があるんですが、この見晴らしですから、千曲川の向こう側も降っているのが見えるんですけど。でも椀子だけは雨が降ってないな、ということがよくあるんですよ」とのこと。
かつて、欽明天皇の皇子「椀子皇子」の領地だったことから名付けられた「椀子ヴィンヤード」。人知を超えた力に守られているのかもしれません。実際にヴィンヤードに立ってこの話を聞くと「不思議ではない」と思えるから不思議です。
傾斜と強粘土
ヴィンヤードを見はるかす小高い場所に建つワイナリー。
畑へと足を踏み入れると、ほとんど平らな場所がありません。写真のメルロの区画も、グーッと下り斜面になっています。
そして、強粘土という土壌。水を含むとかなり重い泥状になりますが、一旦乾くと上の写真のように堅く、ひび割れてしまうような土壌です。
実際、庄司がサン・テミリオンのCh. トロット・ヴィエイユで働いていた時にも、この粘土のぬかるみには苦労しました。しかも、シャトーで貸してくれた長靴は僕の足サイズにはとても大きくて、なんどもぬかるみに長靴をとられてしまったことを懐かしく思い出しました。
タイヤの跡も、土が乾くと、そのままの形で固まっています。
千曲川の両岸に広がる強粘土の土壌から生まれるワインたち。この椀子ワイナリーをはじめ、同じ土壌というテーマで比べてみるのも面白そうです。
風が吹き続けるワイナリー
椀子ワイナリーに到着して、ヴィンヤードを眺めた時に目に入ったのが、鳥の形を模したタコです。高速道路でよく見かける、あの緑と白の鯉のぼりのような「吹き流し」のようなものですね。あれ、ピーンと水平にたなびいている時で、風速10m以上、地面に対して45度くらいの角度になっていると、風速3−5mくらい、という目安なんだそうです。
ワイナリーにいる間に、何度となくこの「赤い鳥」を目にしましたが、いつもこの赤い鳥が風にたなびいて、写真のように地面に対して水平に飛んでいました。そして、ワイナリーを去るまで、この鳥が休んでいる姿を見ることはありませんでした。
それだけ、このヴィンヤードには、風が吹き続けているのです。そして、この風こそ、世界の生産者が認める「その土地ならではの風味」をワインにもたらしているのです。
ぜひ、椀子ワイナリーを訪れた時には、この風を肌で感じてみてください。
「Congratulations」と賞賛される「椀子シラー」と椀子ワイナリーの個性
思い起こせば、僕と椀子ワイナリー(当時は、椀子ヴィンヤード)との最も衝撃的な出会いは「椀子シラー」でした。それは、今から2年前、まだコロナウイルスなど知る由もなかった頃。
ワイン・ジャーナリスト青木冨美子氏のイベントでのことでした。松本楼115周年を記念しての特別なイベント。いま青木氏のブログを読み返しても、イベントの供出ワインリストには記載がないほどの、サプライズでのワイン提供でした。噂は聞いていたのです「椀子のシラーがすごい」と。でも、その希少さゆえに、実際に飲む機会に恵まれませんでした(青木冨美子氏ブログ Non Solo Vino より)
グラスに注がれたワインから感じた最初の香りでビックリ。こんなに品のあるエレガントな白胡椒の香りのするシラーが、日本でも造られているんだ。。。
口に含めば、冷涼さを感じさせる赤系&黒系の果実香に、存在感がありつつも上品な白胡椒の香りが重なって、なんともエレガント。
「これが日本のシラーだ」と自信をもって世界のシラーファン、ワインファンに誇りたい逸品だと、感激したことを覚えています。
そんな思いを小林さんに告げると「海外からも生産者がきて試飲をすると、その他のワインも褒めていただけるんですが、シラーに関しては「Congratulations !!!」って親指を立てて言われることが多いんですよ」というコメントが。
このシラーワインの特徴とされる「胡椒的な香り」をもたらす化合物が「ロタンドン」です。
シャトー・メルシャン、ワインメーカー高瀬秀樹氏の研究によれば、椀子ワイナリーのシラーには、この品種の銘醸地である仏ローヌやオーストラリアに比べて多くのロタンドンが含まれていることが確認されています。
この「シラー種とロタンドン」については、「ブドウ品種とその特徴香を知るとワインがより面白くなる」という「note」の記事に、とてもよくまとめられていますので、ご参考まで。
椀子ワイナリーとの関係で面白い情報としては、「ロタンドン」という物質は、醸造よりも栽培方法により、ブドウに含まれる量が変わってくるそうなのですが、研究の結果、「涼しく、湿度の高いヴィンテージの方が向いている」という報告も上がっています(visi-vin news 記事「【研究】ロタンドンのコントロール」より)
標高650mの大地に広がる強粘土土壌の畑。恵まれた日照量を持ちかながらも、世界のシラー産地に比べて相対的に涼しい気候。そして「この、常に畑に吹き続けるこの風が、シラーに限らず他の品種にも共通して感じるスパイシーさをもたらしているんじゃないかと思うんです」と、小林さん。
ブドウ樹が、ススキの穂が、風にたなびいています
「コショウというよりも、もっと和的な山椒のイメージですね。ですから、山椒をふったうなぎにこの椀子シラーを合わせると、絶品ですよ」と、小林節はもう止まらない。
この「シラーならではの特性」を明確に感じられることが、ワイン造りにおける及第点だとすると、それだけでは「Congratulations」には届かない。それは、ワインメーカーにとって越えるべき最低線だからなのでしょう。
「ブドウ品種ならではの個性」に「椀子でしか出せない個性」を重ねて表現できてこその「Congratulations」なんでしょうね。
11月22日(日)14:00〜 オンライン特別セミナー from 椀子ワイナリー
11月の特別イベントでは、ワイナリー長の小林さんの解説とともにお楽しみ頂くいくつかのワインに共通して、この「清涼さのあるスパイス感」、そしてさらに、ワイナリーを吹き抜ける「風」を感じて頂けるのではないかと思います。
ぜひ、お楽しみに。
次回のブログは
特別セミナーで様々なお話をお伺いする予定の、ワイナリー長小林弘憲さんをはじめ、椀子ワイナリーのワイン造りを支えるチーム椀子のみなさんをご紹介します。こちらも是非あわせてご覧ください。