2017/03/08
Wine
スペイン原産のグルナッシュ その味わいの特徴は?
スペインのアラゴン州原産といわれるぶどう品種「グルナッシュ」。ガルナッチャという名前でも知られており、世界中のワイン産地で栽培されています。ガルナッチャとは「ガーネット」の意。まるでルビーのように輝く美しい色合いも、このぶどうの大きな魅力です。
グルナッシュから造られるワインの特徴と、ユニークな生産者をご紹介します。
軽やかなワインにも、したたかなワインにも仕上がるグルナッシュ
南フランスやスペインのリオハ地方などで多く栽培されている赤ワイン用品種グルナッシュ。親しみやすい甘い香りを持ち、果皮の色は薄め——この品種的特性のために口あたりの良いロゼワインに用いられることも多く、「飲みやすい品種」「軽めの品種」とのみ位置づけられてしまうことも多々ありますが、実は果実の糖度が高いために、アルコール度の高い、しっかりとした味わいにも仕上げやすい、という特徴があります。
ユニークなグルナッシュの造り手たち
南アフリカの駄洒落オジサン
グルナッシュを用いた著名なワインといえば、フランスは南ローヌのシャトー・ヌフ・デュ・パプ。このワイン造りで用いられるグルナッシュ(G)、シラー(S)、ムルヴェードル(M)の三品種のブレンドは一名「GSM」と呼ばれ、世界中のワイン産地で応用されています。
ローヌ地方では、冷涼な北部では力強いシラーが、温暖な南部ではやわらかな旨味をもつグルナッシュが多く栽培され、この二種をブレンドの主体とした、いわゆる「ローヌ系」の赤ワインが造られています。
このローヌ系ブレンドのユニークな造り手に、南アフリカはコースタル・リジョンのチャールズ・バック氏がいます。彼が所有するブランドは、フェアヴュー、スパイス・ルート、ゴーツ・ドゥ・ローム……あれ?妙な名前だな、と思われた方もいるでしょう。コート・デュ・ローヌではなく、ゴーツ・ドゥ・ローム?
バック氏の息子がまだ幼かった頃、山羊小屋の扉を開け、収穫前のぶどう畑に山羊を放つという悪戯をしたことがありました。その時、山羊が美味しそうに食べていたぶどうをブレンドしてワインを造ってみたら、これがあたかもコート・デュ・ローヌの名酒を髣髴とさせる味わいに!そこで、さまよう(Roam)山羊(Goat)という意味で、ゴート・デュ・ロームというワイン名にしたとか。
他にも、山羊がタキシードを着たラベルの「ザ・ゴートファーザー」などをリリースしているちょっとロビン・ウィリアムズ似のバック氏を見ていると、「本当かな?」とも思いますが、たしかに12%ほどブレンドされたグルナッシュは、そのやわらかでしかし一本芯のある品種特性を遺憾なく発揮しています。
南オーストラリア州にも、著名なグルナッシュの造り手がいます。
マクラーレン・ヴェイルにあるワイナリー、ダーレンベルグの四代目当主チェスター・オズボーン氏。いつも派手なシャツに半ズボンで、他人を笑わせることが大好きなオジサンです。
マクラーレン・ヴェイルのワイン生産の歴史は1838年に遡ります。現在も、世界的に稀少なグルナッシュ、シラーズ、ムールヴェドルなどの古樹が数多く存在し、1912年に設立されたダーレンベルグも例外ではありません。
時間帯によって海や山から次々と冷涼な風が流れ込み、それが複雑な起伏をもつ土地と相俟って独自のミクロクリマを育む――こうしたテロワールを背景とするワインは、エレガントなアロマが真骨頂。ことに、モノセパージュで造られるグルナッシュの品格の高さは、比類ないクオリティです。
ところで、トレードマークの派手シャツのほとんどは、チェスター氏のデザイン。そればかりかチェスター氏は、ワイン造りのみならず、芸術、建築、果ては映画製作にまで手を出し、以前お目にかかった際は、「グルナッシュ種の普及のために、グルナッシュを主役にしたSF映画の脚本を書いている」と、奇想天外なスペースオペラの構想を語ってくれました。「あの映画はどうなったのだろう?」と思い出しながら飲む、ダーレンベルグのグルナッシュの味わいは、またひとしおです。
かけられた手間が反映する品種
もちろん、これらは一例に過ぎません。
世界中には、まだまだグルナッシュの名産地があり、ユニークな造り手がたくさんいます。
はじめにもふれたように、果実味豊かなグルナッシュは、口あたりの良い、飲みやすいワインにも、また、手をかければ濃厚でしたたかなワインにもなります。造り手の個性や、かけられた手間が、如実に反映するぶどう品種なのです。
さまざまなグルナッシュの中から、自分好みの、とっておきの物語ある一本が見つけられたら、ワインの楽しみはより一層深まることでしょう。