2017/01/27
Column
ブルゴーニュワインとボルドーワイン——その「特徴」と「違い」とは?
ブルゴーニュとボルドーは、フランスを代表する……否、世界的規模の視座から見ても二大産地といって過言ではないでしょう。
どちらが優れているか、などという議論はナンセンスですが、「今日はブルゴーニュワインが飲みたい気分!」とか、「ここはどうしてもボルドーワインでなければ!」などという譲れないものが、このふたつの産地には、厳然とあります。
ブルゴーニュワインとボルドーワイン、それぞれの特徴
ブルゴーニュワインとボルドーワインの最大の違いを端的にいえば、ブルゴーニュ地方では一品種のぶどうを用いてワインを造る「モノセパージュ」のスタイルが一般的なのに対して、ボルドー地方では複数品種のぶどうをブレンドする「アッサンブラージュ」のスタイルが主であること。
この造りの違いは、フランスのみならず、世界的にもワインの二大潮流。それぞれには甲乙つけがたい魅力があり、醸造家が自分のスタイルを追求しようとする際には、最初に頭を悩ませる関門です。
モノセパージュVSアッサンブラージュ
「潔さが魅力」のブルゴーニュスタイル
ブルゴーニュ地方といえば、赤はピノ・ノワール、白はシャルドネが代表品種。
ピノ・ノワールの特徴は、何といっても「繊細な酸味」です。したがって、酸味をどのように制御するかということが、ピノ・ノワールを美味しく味わう「鍵」となります。口に入ったワインが横に広がると、酸っぱさが際立ってしまうので、ピノ・ノワールのワインは、舌上を速く流れ、横に広がらないことが望ましいのです。
こうしたワインに適しているのが、口径の狭いグラスです。口径が狭いと、ワインを飲む際、径に鼻が引っかかるため、自然と顎があがります。するとワインは、舌の真ん中に落ち、細く、速く流れます。
また、豊かな香りを存分に開かせるためには、大きな容積をもつボウルが必要になります。これらの条件を満たしたリーデルのピノ・ノワールグラスを用いると、複雑な中にも洗練されたクリアさが感じられる、極めて調和的な味わいが具現します。
また、ブルゴーニュのシャルドネからは、たっぷりとした樽香や、マロラクティック香などを特徴とする、複雑でやわらかい印象の白ワインが造られます。こうしたワインは、豊かな香りを存分に楽しむために、香りの出口が広い形状、そして乳酸の柔らかなニュアンスとバランスをとるために、酸をより感じやすいグラスが相応しいのです。リーデルのシャルドネグラスは、ふくらみのあるボウルの低い位置でカットしているために口径が大きく、ワインは広く舌へ落ち、ゆっくりと横へ広がりながら咽喉へと進みます。こうした形状のグラスで飲むとブルゴーニュのシャルドネは、ミネラルでトースティーな風味に加え、極めて上品な酸を味わうことができるのです。
「複雑で調和のとれた味わい」を具現させるボルドースタイル
ボルドー地方では、白ワインにはセミヨンやソーヴィニョン・ブラン、赤ワインにはカベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、メルローなどの品種が用いられます。複数の品種を用いることで、赤白ともにバランスの良い、調和的な味わいのワインになります。
ボルドーの白ワインはしばしば、爽やかな酸を持つ辛口に仕上げられます。このようなワインは、舌先でファーストコンタクトさせ、横へ広げず速いスピードで咽喉の奥へと誘導すると、その真価を感じることができます。形状でいうと、狭い口径のグラスです。こうしたグラスを用いると、瑞々しいリンゴ酸をより活き活きと、そして果実味をしっかりと捉えることができるのです。
また、ボルドーの赤ワインは、タンニンや旨味、甘味などワインを構成する要素が、そもそも調和的に仕上げられています。こうしたスタイルのワインは、調和的な構成が充分に感じられるように、ゆっくりと満遍なく舌の上を流れるよう誘導します。口径の広いリーデルのボルドーグラスを用いると、ワインは広がりつつ口へと注がれ、ゆるやかに味覚を刺激しながら、濃厚な味わいを堪能することができます。
生産者も味わいのうち?! それぞれのテロワールの魅力
ブルゴーニュとボルドーの違いは、ぶどう品種だけではありません。たとえば気候は、ボルドーが比較的温暖な海洋性気候であるのに対して、内陸に位置するブルゴーニュは、夏は暑く冬は寒い大陸性気候。
また土壌は、石灰質の多いブルゴーニュに対して、ガロンヌ川とドルドーニュ川、そしてこの2本の川が合流したジロンド川流域に展開するボルドー地方は、粘土質、砂質、砂利質、石灰質など本来多彩な地質的条件に加え、河川によって上流から運ばれてきた土壌の影響も受けています。モノセパージュとアッサンブラージュという造りの違いは、こうした地質的条件も濃厚に反映しています。
ワインを生み出すすべての要素を指す「テロワール」という言葉には、地理的、気候的条件に加えて、歴史や文化、そして、そこにどのような人びとが暮らしているかという人的条件も、含まれています。
ボルドーワインの名前の多くに「シャトー」がつけられていることからも窺えるように、ボルドーでは、いわゆる「シャトーもの」のスタイルが発展しました。一般的にシャトーとは「城」を指しますが、ボルドーにおいてはやや広く「醸造所」というほどの意味。中世の一時期イギリス領となり、早くから海外に輸出されたボルドーワインは、シャトーと呼ばれる醸造所を中心としてその周囲に葡萄畑を展開させ、大いにブランド力を高めました。
一方ブルゴーニュも、古代ローマ時代から葡萄栽培がおこなわれた歴史ある産地です。6世紀頃にはすでに各所の修道院でクオリティの高いワインが造られ、12世紀にはワインの産地としての名声を確立していた、といわれています。貴族にとっては、ブルゴーニュの偉大な葡萄畑を所有することがステイタス。有名は畑を手に入れるため熾烈な競争は、今も語り草となっています。このように、近世まで教会や貴族に専有されていた垂涎の葡萄畑は、なるがゆえにフランス革命の際、細かく分断されて市民へと開放されました。その結果、ブルゴーニュでは畑のひとつひとつの区画が小さくなり、また造り手も小規模な家族経営が多くなった、というわけです。
シャトーワインのボルドーと、ユニークな小規模生産者が多いブルゴーニュ——そうしたスタイルの違いには、このように歴史的な背景も深く関わっているのです。
Author: 高山 宗東