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2015/02/05

Column

「そもそもワイングラスって必要?」「ワイングラスは多くの形をそろえるべき?」【初めてのグラス選び】

新連載【初めてのグラス選び】ワイングラスでワインをもっと美味しく!

ワイングラスとワインの関係は、密接で深い。ワインを選ぶ時のようにグラスにもこだわれば、ワインの楽しみはもっと広がる。そこで「リーデル」のグラス・エデュケイター3氏に「ワイングラスって何?」「あると何がいい?」など、素朴な疑問と「きほんのき」を聞いた。
グラス・エデュケイター

今回のテーマ

【グラスにはワインの楽しみを広げる力がある】

そもそもワイングラスって必要?

白水:よくいただく質問です(笑)。もちろん、ワインはコップでもジョッキでも飲むことはできます。しかしワインはほかのお酒と違って、香りを楽しむ要素が大きいもの。ワイングラスは香りを十分に引き出す形状が研究されていますから、ワインを最大限に楽しむ助けになってくれるはずです。

吉井:ワイングラスのボウルの形は、チューリップや金魚鉢のようですよね。これは香りをグラス内に集めて、それが飲んだ時に体にむだなく入るような構造になっています。香りの成分の多くは、グラスの膨らみ部分に滞留します。ワインをグラスに注ぐ時は、半分以上空間を残しておきますよね。あれはワインをケチっているわけではなく(笑)、そんな香りをためる空間を確保するためなのです。

庄司:例えば1本の赤ワイン。イチゴやチェリー、プラム、煮詰めたジャム、そしてに由来するヴァニラやコーヒーのニュアンスなど、さまざまな香りの要素があるとします。これは、香りが留まりにくい小さな円柱型のガラスコップで感じ取るのは難しいでしょう。一方ワイングラスなら、ワインの香りの要素をくまなく引き出す機能がありますから、それが可能です。
デジタルカメラに例えると、画素数が多いのがワイングラスです。ワインの持っている緻密な情報、個性をくっきりと浮かび上がらせてくれるイメージです。

ワイングラスは多くの形をそろえるべき?

吉井:ワイングラスは、膨らみ部分を通してワインが持つ多くの情報を飲み手に伝えてくれます。ならばボウルは大きいほどいいのかというと、決してそうではありません。ワインによて適正な大きさがあるのです。多くの人は、白ワインは赤ワインより小ぶりのものがいいというイメージがあるかもしれませんが、そうとは限りません。

白水:白ワインでも、ブルゴーニュ地方のモンラッシェなど、凝縮感があり、熟成もさせているしかりしたタイプがあります。とても豊かな香りで味わいも複雑、非常に多くの情報が凝縮しています。そういうワインには、赤ワイン用にカテゴライズされるような大きいボウルが必要になりますね。

庄司:本当は白ワイン、赤ワイン、もっと言えば原料のブドウ品種や造りによっても、最適な大きさや形状があります。
世界中のワイン一つ一つに合わせてグラスを作ることは不可能ですが、一つのパターンですべてのワインの個性を100パーセント引き出すことも難しいのです。

吉井:では、何からそろえればいいのでしう。例えば「リーデル」の場合、グラスを開発する時、ワイン生産者たちと一緒に「ワークショップ」を行い、何度もテイスティングを重ねます。
ソーヴィニヨン・ブラングラスを作った時などは、2000人以上の生産者が関わりました。また1998年から2000年にかけて、大吟醸酒用のグラスを開発しましたが、この時はのべ200人の蔵元や日本酒専門家が参画。60種類のグラスを元に25回もテイスティング(ワークショップ)を繰り返して絞り込み、製品化しました。そんな、本来の味わいを最もよく知る造り手が考え抜いて誕生させたグラスなら、ワインを楽しむ道具として選びたいな、と思っていただけたらうれしいですね。

グラスエデュケイター

グラスの形状やサイズで味が変わる

白水:さて少し専門的な話になりますが、ワイングラスは人体構造を考えて作られています。普段意識することは少ないかもしれませんが、私たちがワインを飲む時、こぼさないよう無意識に角度を調整しながら頭を傾けます。この傾き加減は、グラスの形状によって変わります。
例えば口の広がったグラスで飲もうとすると頭はあまり傾かず、一方、口のすぼまったグラスで飲む時は、流れ込みにくい液体をとらえようと後方に大きく預きます。こうした動きは、ワインを口の中の適切な位置に導くといわれます。またワインが喉の奥へと直線的に流れれば冷たさを感じやすくなり、さわやかな印象になります。ワインが口中に広がり滞留するような流れになると、酸味や苦味がしっかり受け止められる。

庄司:飲み口が広いものと狭いものがあるのは、口に入ってくるワインの量をコントロールすることにもつながり、それが味わいの違いにも影響します。またワインのグレードによっても、形を見極める必要があります。グラン・クリュ(特級)クラスになればワインが持つ要素も多くなるわけですから、グラスの形状もそれに合わせたものを選びたいですね。

吉井:今でこそ、ワイングラスといえば透明で滑らかなグラスを思い浮かべますが、50年ほど前までは厚くてデコラティブなグラスも多くありました。ガラス以外の素材もありましたね。しかし今主流の、薄くシンプルなグラスを使ってみると、口当りがいいですし、ワインの温度も繊細にキャッチできます。美しい色合いを愛でることもできます。

白水:素材の厚みは大切ですね。唇に当たった時の印象や感触がガラリと変わりますから。
また、指先はことに敏感ですから、持った感覚や飲む時の動作がワインの味わいに影響を及ぼすという方もいます。

ワインの本質を引き出す

庄司:さて、ロールプレイングゲームでは、いろいろな能力を持っている仲間をたくさんそろえて自分の強力な味方にします(笑)。それと同じで、ワイングラスも種類を多く持っていれば、さまざまなタイプのワインに適応できるケースが増える。
リーデルが14シリーズ160種類以上のグラスを製品化しているのは、世界中のワインに合わせることができるグラスを造りたいという思いの結晶です。

白水:そのワインに合ったグラスで味わうと、ワインの本質がくっきりと浮かび上がります。ブドウ品種はもちろん、それぞれの気候や土壌が作り出した果実味、酸味、ミネラル、タンニンなど、多くの情報を感じることができる。ますますワインが楽しくなりますね。

吉井:私たちグラス・エデュケイターは、グラス選びの相談に乗り、アドバイスをしています。とはいえワイングラスとワインの相性は、個人の好みも影響するもの。数学のように正解があるわけではないので、無限ともいえます。だからこそ、自分の好みの組み合わせや意外な相性を見付ける楽しみがある。ワインの世界にももっと深く入り込めそうですね!

ワインの数だけグラスはある!?自分好みの”マリアージュ”を探して
ワイン王国

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この記事は2015年2月5日(木)発売「ワイン王国 No.85」に連載されました。
こちらからPDFファイルをダウンロードしていただけます。
ワイン王国 PDF(393KB)

  • 庄司 大輔Daisuke Shoji
  • (社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ/リーデル社 ワイングラス・エデュケイター

1971年神奈川県生まれ。明治大学文学部文学科卒業、専攻は演劇学。 塾講師、レストラン勤務などを経て、1998年(社)日本ソムリエ協会公認ソムリエ呼称資格取得。1999年にボルドー地方サンテミリオンの「シャトー・トロットヴィエイユ」で学ぶ。2001年リーデル・ジャパン入社、日本人初の「リーデル社グラス・エデュケイター」となる。リーデルグラスとワインの深いつながりやその機能を、グラス・テイスティングを通して広く伝えるため、文字通り東奔西走している。
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