2017/04/07
Column
世界有数のワイン産地 ブルゴーニュワインの歴史
ボルドーと並んで、世界的に有名なワイン産地ブルゴーニュ地方。いちどハマると、「ブルゴーニュ以外はワインじゃない!」というほどの極論に走る、熱狂的ファンも少なくありません。
そんなブルゴーニュ地方の、ワイン造りの歴史を繙いてみましょう。
かつてブルグンド人がいたブルゴーニュ
フランス中東部に位置するブルゴーニュ地方は、ヨンヌ県、コート・ドール県、ニエーブル県、ソーヌ・エ・ロアール県からなり、マスタードで知られる美食都市ディジョンを中心としています。
その名の由来は、ゲルマン民族大移動期の5世紀初頭頃、ブルグンド人によって建国された「ブルグンド王国」。王国が無くなってからも、かつてブルグンド王国であった一帯は、ブルゴーニュと呼ばれました。
各時代において磨かれたワインの品質
最高の知識層修道士が醸造にたずさわる
ブルゴーニュでは、古代ローマ時代からぶどう栽培がおこなわれ、6世紀頃にはすでに各所の修道院でクオリティの高いワインが造られていました。
ことに、ベネディクト派のクリュニイ会とシトー会がブルゴーニュに設立した修道院では、当時最高の知識層であった修道士たちによって、ワイン造りがおこなわれました。何故なら、「必要とするものは、自ら生産すべし」というのが、ベネディクト派の教え。ゆえに、ベルギーのベネディクト派修道院では、伝統的にビールが造られます。
修道士たちはすでに11世紀には、畑によってワインの味わいが微妙に異なることに気づき、ぶどう畑を小さな区画に分け、それを「クリマ」と呼びました。
中でも、特に優れた畑は石垣や塀で囲い「クロ」と呼んで、ワインの味わいを研ぎ澄ましていきます。
当時、ブルゴーニュ一帯はブルゴーニュ公国として、ブルゴーニュ公の支配下にありました。領主であるブルゴーニュ公も、ピノ・ノワールの優位性を認めてガメイの植樹を禁じるなど、ワイン生産を助ける政策を施しました。
ブルゴーニュの畑は社会的ステイタス
15世紀、ブルゴーニュ公国はフランス王国との争いに敗れて併合されますが、やがてフランスの宮廷においてブルゴーニュワインがもてはやされるようになり、フランス全土にその名声が響き渡りました。
ブルゴーニュに優れたぶどう畑を所有することが、フランス貴族のステイタスとなったのです。貴族たちはこぞって、ブルゴーニュにぶどう畑を求めました。
コンティ公ルイ・フランソワ一世が、国王ルイ15世の寵姫として大きな影響力を持っていたポンパドール夫人と熾烈な争いを繰り広げ、ついに所有することとなったブルゴーニュの畑は、コンティ公の喜びを謳うかのように「ロマネ・コンティ」と呼ばれています。
フランス革命により細分化
教会や貴族に専有されていた垂涎の葡萄畑は、フランス革命によって市民へと開放されました。その結果、ブルゴーニュではひとつの区画が小さくなり、また造り手(ドメーヌ)も小規模な家族経営が多くなりました。
一方では、こうした背景に由来して、ブルゴーニュではネゴシアン制度が発展しました。
ネゴシアンとは、ぶどうもしくは醸造されたワインを買い上げ、瓶詰め以後の作業をおこなう大規模経営の商人のこと。醸造後ワインを瓶詰めし、ラベルを貼り、管理し、飲み頃になるまで保管。さらに、品質を見極めたうえで、需要を読んで市場へと流通させるのが、その仕事です。
ネゴシアンものというと、大量生産品と同義語的に使われる傾向があります。ネゴシアンが一定規模の以上のワインを生産しようとすると、いくつかの小さなドメーヌのワインを混ぜる必要があることなどが、その原因のひとつといえるでしょうか。
しかし、ワインを混ぜることは必ずしも悪いこととはいえません。土地や葡萄を知り尽し、かつ効率的に造られたネゴシアンもののワインは、その土地の個性が巧みに表現され、かつコストパフォーマンスに優れています。
ブルゴーニュの優れたネゴシアンたち
現在のブルゴーニュを代表するネゴシアンをいくつか挙げてみましょう。
〈ルイ・ジャド〉は、1859年の設立。コート・ドール全域やボージョレ地区にも、広く展開しています。 また、154ヘクタールの自社畑を所有するドメーヌでもあり、品質の高いワインを生産しています。
〈ルイ・ラトゥール〉は、1797年設立のラマロッスを起源とするネゴシアン。ジュヴレ・シャンベルタンやピュリニィ・モンラッシェなどに、50ヘクタールにのぼる自社畑を所有しています。ことに白ワインの秀逸さは有名です。
〈ジョセフ・ドルーアン〉は1880年にボーヌに設立されたネゴシアン。コート・ド・ニュイ地区を中心に展開し、およそ65ヘクタールの自社畑を保有。1988年には、アメリカオレゴン州のウィラメットバレーに〈ドメーヌ・ドルーアン・オレゴン〉を設立したことでも知られています。
こうしてみると、ネゴシアンといってもドメーヌの一面を備え、高品質なワイン造りを志向していることが窺えます。そうしたバランス感覚の良さも、ブルゴーニュの大きな魅力といえるでしょう。