2017/06/01
Column
10年間でワイナリーが2.5倍に 北海道ワイン事情
日本を代表するワイン生産地のひとつ北海道。
近年、新しいワイナリーも次々と設立され、そのクオリティを高めています。
その背景のひとつには「特区制度」が。ワインの特区制度と、北海道の魅力的な造り手をご紹介します。
ワインだけじゃない「特区制度」とは?
小泉内閣時代の2008年、地域経済の成長促進を図って『構造改革特区制度』、いわゆる「特区構想」が施行されました。
特区とは、従来法規制等によって、事業化が不可能もしくは困難であった事業を、特別に行える地域のこと。教育、物流、国際交流、農業関連、都市農村交流、街づくり、エコロジー、行政サービス、福祉、医療、産学連携などなど、さまざまな領域におよびます。
ワイン特区とは?
最低生産量のハードルを撤廃
ワイン特区は、このうちの都市農村交流に属します。
従来の酒税法では、製造量の最低ラインが6000ℓと膨大で、それなりの規模をもった酒蔵でなければ醸造に取り組むことは難しかったところを、地域の特産物である農産物を原料とした果実酒又はリキュールを製造する場合、果実酒は2000ℓ、リキュールは1000ℓとすること。農業者が営む農家民宿や農園レストラン等で、自らが生産した果実を原料として果実酒を製造する場合は、最低製造数量基準を設けない(ただし、果実酒2000ℓ以下の場合は、小売、卸しは認められず。生産農家が営むレストランや民宿においてのみ提供可能)、などと緩和させたのです。
新たにワイナリーを設立し、醸造に取り組むには、莫大な設備投資がかかります。そのうえ、知名度も無いワイナリーのワインでは、市場で必ず売れるとは限りません。これらのリスクが事実上新規参入の壁になっていたわけです。
北海道のワイン醸造の歴史
北海道がワイン産地として注目されるようになったのは、1970年代頃。
ドイツやフランスのアルザスなど、ヨーロッパの寒冷地に適合したぶどう品種の栽培を得意とするなど、独自のスタイルで認知度をあげていきました。
綺麗な酸やほのぼのとした旨味など、いかにも北の大地が育んだニュアンスを特徴としています。
ワイン産地としては、池田町や富良野市、小樽市などが知られています。
たとえば小樽市の〈北海道ワイン〉は、1974年の設立。小樽市に本拠を置き、総面積440ヘクタールにものぼる規模日本一の自社畑および鶴沼ワイナリーを所有。用いるぶどうはすべて北海道産。「1cc、1円のワイン」という目標をかかげ、価格が高くなりがちな純国産ワインのコストダウンを志向する功労者的なワイナリーです。
北海道の「特区」
北海道のワイン特区としては、平成23年11月の第27回認定において余市町の「北のフルーツ王国よいちワイン特区」が、平成26年11月の第35階認定においてニセコ町の「ニセコ町ワイン特区」が認められています。
特区制度のお蔭か、近年、余市やニセコには次々とユニークなワイナリーが設立されています。
余市市の〈ドメーヌ タカヒコ〉は、2009年に移住してきた曽我貴彦氏の設立。長野県のワイン醸造家に生まれ、栃木県のココ・ファームワイナリーでぶどう栽培と原料調達の責任者を務めた経歴の持ち主で、素晴らしいピノ・ノワールの造り手として既に高い評価を得ています。
同じく余市の〈リタファーム&ワイナリー〉は、2013年の成立。よいちワイン特区制度の活用1号。ワインの他、素晴らしい品質のシードルも生産しています。
ニセコ町の羊蹄山の麓には、2016年〈ニセコワイナリー〉が設立されました。比較的冷涼な気候を好むぶどうですが、それでも北海道の寒さは別格で、標高100メートルを超える場所では、ぶどう栽培は難しいとされてきました。そんな中、標高200メートルに位置する〈ニセコワイナリー〉はかなりのチャレンジャーといえるでしょうが、そうした背景も含めた「テロワールの表現」に取り組んでいます。元サラリーマンのご主人と、絵本作家の奥様というオーナー夫妻は、まさに北海道の今を象徴する造り手さんといえるかもしれません。
独自の味わいを楽しみたい、北海道のワイン
このように、さまざまな背景を得て躍進し続けている北海道のワイン。独特な風味を持つアイテムも多いので、「どのグラスが合うかな?」と、さまざまなグラスを用いて飲んでみるのも一興です。
たとえば……ですが〈リタファーム&ワイナリー〉のシードルは、リースリング用グラスでいただいたところ、煌めくような味わいと、鼻に抜ける香りが絶品でした。「酸が綺麗」という共通項が、リースリング対応のグラスに寄り添うのかもしれません。
北海道のワインとグラスの相性の良い取り合わせがありましたら、どうぞご一報ください。