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2017/06/07

Column

国や時期によって異なる形状 ワインボトルの歴史

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ワインの歴史とともに、ワインボトルの形状は進化を続けてきました。

国や年代によって、ワインボトル……いえ、ワインの容器が、どのように変化してきたのか、その歴史を振り返ってみましょう。

何故750mlがベーシックスタイルとなったのか?

現在、ワインボトルのベーシックスタイルは概ね750ml。これは、アルコール度数約14度前後というワインの条件をかんがみると、アルコール分解酵素を持つ成人が、ふたりで飲んでちょうどほろ酔いという見当の量です。もちろん、個人差のある話ではありますが。

「何人で飲むか」が重要なポイント

ワインと容器の関係とは?

二人で飲んでいて、ボトルが空になったところで、ほどよく止めるもよし、もう一本開けるもよし。人数が多くなっても、ボトルの容量を見当に注文しておけば、量の点において大きく外れることは、まずありません。

この見事な適量にワインボトルが達するまでには、ずいぶんと長い歴史を経ています。

古代の地中海諸国においてワイン容器として一般的だったのは、アンフォラと呼ばれる土器の壺でした。底の尖った首の長い壺で、持ち運びしやすいように耳のような大きな取っ手がふたつ。コルクや蝋、樹脂によって密閉されたアンフォラは、思いのほか機密性が高く、当時の名産地東ギリシャのキオス島産のワインは、エジプト、イタリア、ブルガリアなど、様々な国に輸出されていたといわれています。

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アンフォラの大きさは、時代や地域によってまちまちでしたが、平均すると、古代ギリシャのアンフォラは40ℓ、古代ローマのアンフォラは26ℓ入りくらいのものが一般的であったとされています。

これを、現代のワインボトルと比較して考えてみましょう。現在、レストランでワインをグラス売りすると、750mlのボトルから6杯とるのが普通でしょうか。つまり、一杯125ml。一瓶を二人で飲むとすれば、一人375mlづつでほろ酔いという見当。すると、古代ギリシャのベーシックアンフォラひとつで約106人が、古代ローマのベーシックアンフォラでは約69人がほろ酔いになる計算になります。

ここで、時代も、風俗も、考証も無視してピンとくるのが、この人数が現代の居酒屋の一回転の人数に酷似している、ということ。100人前後はやや大きめ、70人前後は中くらいの居酒屋の許容人数に、ほぼ等しいのです。アンフォラの大きさはつまり、古代の酒場で消費しやすい量でもあった、といえるかもしれません。

ワインを造ること、と同じくくらい重要だった、容器を作ること

素焼きのアンフォラの後、ワインの保存や運搬にはもっぱら、より機密性が高く、軽い、樽が使われるようになりました。

ワインは、空気と触れ合うと酸化します。簡単に言えば、酸っぱくなってしまいます。そうさせないためには、「早く飲めばいい」……のではなく、空気に触れさせなければ良いわけで、密閉製の高い容器を作ることは、ワインを造ることと同じくらい、重要なことであったのです。

たとえば、イタリアはトスカーナ州、キアンティの著名な造り手であるマッツェイ侯爵家の紋章は、樽作りに用いる木製ハンマー。これは、侯爵家がはじめ樽の製造で財を成した歴史を示したもの。良いワインを造り、流通に乗せ、市場を獲得するためには、よい器を造ることが、不可欠の条件なのです。

テーブルに花を添えるガラスのボトル

しかし、いくら保存・運搬の利便性が良くても、樽をそのまま食卓に持ち込むことはエレガントとはいえません。そこで、テーブルでのサービスには陶器や硝子で作られたキャラフやデカンタが用いられるようになりました。

これが、現在の、保存も出来、食卓へも登せることのできるワインボトルへと結びついてゆくわけです。陶器や硝子で作られたワインボトルは17世紀頃から徐々に普及しはじめましたが、その容量やかたちはまちまちでした。

とはいえ、キャラフは、食卓におけるサービスのために作られたものですから、テーブルを囲む複数の人々へのサービスに便の良い容量であったことは類推できます。こうした流れが、現在のワインボトル750mlに結びついていったと考えられます。

ボトルのかたちから解ること

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やがて、各産地に特有のボトルのかたちが見られるようになります。

ブルゴーニュワインのボトルはなで肩でゆったり、ボルドーワインは肩が張ってシャープ。ドイツやアルザスのワインは、首の長いスマートなボトルに入れられます。またドイツワインのボトルは、モーゼル川流域は緑、ライン川流域は茶……という具合に、色から地域を見分けることができるようになっています。

ちょっと特殊なのは、ドイツワインの中でもフランケン地方のボトル。首の長いスマートなボトルが主流のドイツワインの中で、丸いずんぐりとしたユニークなかたちをしています。この、ひと目でフランケン地方のワインと解るボトルは、伝統的にワイン容器として用いていた革袋の形状に拠るものといわれています。ボトルの呼び名はその歴史を示すかのように、ボックス・ボイテル(雄山羊の睾丸)といいます。

また、ニューワールドなどの産地においては、ボトルのかたちは、ワインのスタイルを窺う手がかりとなります。

たとえば、なで肩のブルゴーニュタイプのボトルには、ピノ・ノワールなど単一品種から造られたブルゴーニュスタイルのワインが入れられることが多く、肩が張ってシャープなボルドータイプのボトルには数種類のぶどうをアッサンブラージュしたボルドースタイルのワインが入れられることが多いのです。ドイツやアルザスで用いられるスマートなボトルに入れられていれば、ニューワールドのワインであっても「酸がキリリとしたタイプかな?」「リースリングやゲヴュルツトラミネールなどの品種をつかったボトルかな?」と、見当がつきます。

ボトルには情報が満載

ワインボトルの底には、澱が溜まりやすいように窪みがつけてあります。つまり、窪みが深いワインは、長く熟成し得るワインというサインです。

反対に、底に窪みがほとんどないボトルに入っているワインは、長く熟成させない早飲みタイプ。フレッシュな白ワインなどが入れられるのが普通です。

したがって、同じ白ワインでも、瓶内で二次発酵させ、熟成感をよろこぶシャンパーニュのボトルには、底に深い窪みがつけられているというわけです。

ボトルからだけでも、さまざまな情報を読み取ることができるのです。

  • 髙山 宗東muneharutakayama
  • ワインコラムニスト・歴史家・考証家・有職点前(中世風茶礼)家元

専門は近世史と有職故実。歴史的観点を踏まえてワインのコラムなどを執筆。
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