2017/09/07
Column
日本も含まれる? ワイン生産に適した地帯「ワインベルト」とは
コーンベルト、コットンベルト、コーヒーベルトにバナナベルト——世界にはさまざまなベルトが存在します。
そしてその意味合いもさまざま。もちろんワインのベルトも存在しています。
ベルトとは?
ズボンがずり落ちないようにするもの……とはまた意味合いの違うベルトが、あります。
それは、地理学的なものであったり、民族学的なものであったり、はたまた政治経済的なものであったり。
そんなさまざまな「ベルト」の中で、「ワインベルト」の位置づけは?
ワインベルトをひもとく
政治経済的なベルト
アメリカ経済をひもとく時には、さまざまなベルト出てきます。
たとえば「コットンベルト」といえば、歴史的に多少の移動はありますが、オクラホマ州を西端、ノースカロライナ州を東端として結んだ以南の地域。この一帯は、綿花の開花前の気候が温暖多雨で、開花後には日照に恵まれて乾燥するという、コットン生産の適地。加えて歴史的には、奴隷制度や小作制度が導入され、プランテーションを営みやすかったという条件が備わっていました。
また、「ライスベルト」といえば、アメリカ国内における米収穫の大部分を占めるアーカンソー州、テキサス州、ミシシッピ州、ルイジアナ州の南部4州のこと。
同じく「コーンベルト」は、トウモロコシを主要作物としているアメリカ合衆国中西部、アイオワ州、イリノイ州、ネブラスカ州東部、ミネソタ州南部、インディアナ州、ミシガン州南部、オハイオ州西部、カンザス州東部、ミズーリ州などを指します。そして、単に栽培地域のみならず、農業組合の力が強く、政治にも家族経営の農家の意向が濃厚に反映する地域、という意味合いも含まれます。
また、ラストベルトは、アメリカ合衆国の中西部および大西洋岸中部の、脱工業化が進む地域のこと。従来、重工業と製造業の盛んなところでしたが、製造業の主体が国外に移行したため不振となり、代わりにナノテクノロジーやバイオテクノロジーで存在感を示している地域——という意味があります。
バナナベルト、コーヒーベルトも
一方、地誌的、民族学的な「ベルト」もあります。
たとえば「バナナベルト」は、赤道をはさんだ南緯30°から北緯30°の熱帯〜亜熱帯地域。フィリピン、エクアドル、台湾などのバナナの主要生産地が、この一帯に分布しています。
同じくコーヒーベルトは、赤道をはさんだ南緯25°、北緯25°の間で、平均気温20℃前後、年雨量1300~1800mmという条件下にある、コーヒー豆の栽培適地で、高度は、900m~2000mの間が最適とされています。
これらは、作物の栽培適地という地誌的意味合いが強く、世界的に展開しています。
ワインベルト
さてワインベルトはというと、北緯30~50°、南緯20~40°の、ぶどう栽培およびワイン醸造に適した地域のこと。
年間平均気温10~20℃で、ぶどうの花の開花から収穫までの時期の日照時間が年間1250~1500時間、年間降雨量500~800mmという条件がついています。
北緯30~50°といえば、フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、アメリカなどなだたるワイン生産地が含まれ、日本もその中に。
南緯20~40°といえば、チリ、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど、こちらもニューワールドの名産地が該当します。
ベルトの中でも、それぞれの特徴が
「ぶどう栽培とワイン醸造の適地」であるワインベルトですが、その中でもそれぞれの地域によって、できるワインには特徴があります。
赤道に近い温暖〜高温地域では、アルコール度数が高く、タンニンが強く、酸は弱めのフルボディタイプのワインが造られます。反対に、赤道から離れるほどにアルコール度数は低め、タンニンは弱め、酸は強めのライトタイプのワインが多くなります。
その他の要素も関連しつつ、多彩な味わいが実現
ワインを生み出す背景を「テロワール」といいます。
テロワールには、気候、環境、土壌、地質、歴史や、そこに住んでいる人びとの住民性までも含まれます。
「ワインベルト」というパースペクティヴも、テロワールのひとつと考えてよいでしょう。したがって、ワインベルトだけでワインが理解できるわけではありませんが、ワインを理解する大きな手がかりにはなります。
近年では、ミクロクリマの研究がすすみ、ワインベルトに含まれない地域においても、局地的にぶどう栽培が可能な条件を満たす場所が発見され、ワイン醸造が試みられるようにもなってきました。
ワインベルトの知識があれば、「へえ、こんなところでワインを造っているんだ!」という発見もしやすくなるはず。新鮮な驚きに遭遇しつつ、ワインを堪能する機会が増えるかもしれません。