2015/10/05
Column
【初めてのグラス選び】大吟醸グラスがあるってホント?
今回のテーマ
大吟醸グラスがあるってホント?
日本酒にも専用グラスが必要!?
和食文化の広がりとともに、今や日本酒は世界でも「SAKE」と呼ばれ、人気が高まっている。米と麹と水を主な原料とする清酒は特有の製法で造られ、ワインと同じ醸造酒に分類される。特に香り高い吟醸酒は、グラス選びで味わいが大きく変化する。そこで「リーデル・ジャパン」のグラスエデュケイターである白水健氏に、日本酒にマッチするグラス選びのポイントを聞いた。
「日本酒は、お燗をしても冷やしても楽しめ、ちょこや平盃などの酒器で飲まれる機会が多いなど、ワインに比べると飲み方がいろいろ。しかし大吟醸のように香りが豊かで、冷やして味わう日本酒には、白ワイングラスと似た形状のグラスを選ぶといいでしょう。ボウルの膨らみに香りが集まり、フルーティーな吟醸酒らしい香りを堪能できます」
杜氏の間では、複雑で繊細なニュアンスをチェックするため、ワイングラスを使って新酒のテイスティングをする機会が増えているという。吟醸酒の特徴を引き立てるグラスを使うことが、より美味しく味わうポイントでもあるのだ。
大吟醸専用グラスが味わいを広げる
日本酒の中でも、特に上品で洗練された香りが魅力の大吟醸は、ワインに通じるものがある。
「白ワイングラスと同じような形状のグラスを使うと、味わいが際立ちます。グラスの中央に膨らみがあり、口径がややすぼまっているようなものであれば、香りが凝縮される。グラスを傾けると、喉の奥に向かって直線的に液体が流れるので、アルコールのボリューム感よりもミネラルや穏やかな酸など、繊細な味わいが楽しめます」と白水氏。吟醸酒に適したグラスを選ぶと、今まで使っていた酒器では気付かなかった吟醸酒の魅力を発見することができるだろう。専用グラスは、大吟醸を存分に味わうための道具となるのだ。
日本酒の区分
「吟醸」は精米歩合60%以下、「大吟醸」は精米歩合50%以下の白米と、米麹、水を原料として製造した酒。
「大吟醸」は、吟醸香を引き出すために最後に少量の醸造アルコールを添加する。
添加しないものは「純米大吟醸」と区分する。
日本酒のグラス選びとは
白水:今回は、大吟醸酒に合うグラスを考えたいと思います。大吟醸は、日本酒の中で特に香り高いもの。ワインにも日本酒にも造詣の深い君嶋さんに、大吟醸酒の世界を紐解いてもらいましょう。
君嶋:日本酒はワインと同じく醸造酒ですが、基本原料は米と米麹と水です。香りを引き出すために少量の醸造アルコールを添加したり、低温発酵させたりしたものが「吟醸酒」です。バナナやモモを思わせるフルーティーな香りは、吟醸香ともいわれます。また「大吟醸酒」は、原料の米の精米歩合がより高いもの(50パーセント以下)。価格は高くなりますが、独特の香りと清冽な飲み口は大吟醸酒ならではの魅力です。
白水:銀座の「横浜君嶋屋」では、吟醸酒をワイングラスで提供していますね。
君嶋:日本酒を飲む酒器は、昔からちょこや平盃が使われてきました。陶器や磁器やガラスなど、材質はさまざまで、いずれもサイズは小さい。吟醸酒のように華やかな香りを持つお酒を楽しむのなら、その香りを存分に堪能できる大きめの酒器で飲むほうがお客さまも満足しますよね。ワイングラスで飲むと、特徴的な香りが十分引き出せるのです。
白水:どんなふうにグラスを選びますか?
君嶋:タイプ、味わいで変えます。例えば、野性みのある荒削りな感じの日本酒は、ちょこで飲むほうがうまいものがあります。酒器が個性をある程度均一化してくれるので、バランスが取れるのです。一方、最近主流の「純米大吟醸」は香りも味わいも洗練されているので、上質な白ワインと同じように扱うといい。ソーヴィニヨン・ブラン用グラスと似た卵形の膨らみを持つ形状の、大吟醸用のグラスを使います。実際に、純米大吟醸『加賀鳶』(石川県/福光屋)を試飲してみましょう。
白水:なるほど、大吟醸用グラスを使うことで、香りはもちろん、お酒の骨格やミネラルっぽさもより感じられますね。酸のニュアンスまで感じられます。味わいに広がりが出るので、合わせる料理の幅も広くなりますね。これよりボウルが大きい、樽熟成したシャルドネ用グラスよりも、すっきりとした清冽なニュアンスが表れます。
君嶋:大吟醸用グラスの開発には私も携わったのですが、蔵元や専門家、延べ200人ほどが試飲を繰り返し、完成させました。見た目も機能も、ほぼワイングラスですよね。
白水:大吟醸用グラスで飲むと、香りも洗練され、味わいのバランスもいい。飲み口がややすぼまっているので、グラスを傾けた時に少量の酒が直線的に口に入ってきます。舌の上に落ちた後、喉へスッと流れていくので、香りと旨味がすっきりと広がります。一方これが、液体が大量に口に入る構造の酒器の場合、繊細なニュアンスよりもアルコールのボリューム感が強く感じられてしまいます。
日本酒も味わいの違いでグラスが変わる
君嶋:ポテンシャルの高い日本酒の個性を引き出すなら、グラスもそれに見合ったものを選ぶことが大事です。熟成した大吟醸酒などは、店ではもっとボウルの膨らみが大きい、樽熟成したシャルドネ用グラスなどで提供することもあります。先ほどの『加賀鳶』よりも深く、リッチな味わいの純米大吟醸『醸し人九平次』(兵庫県/萬乗醸造)を試飲しましょう。
白水:香りも旨味も飛び切りですね。大吟醸の個性を、グラスが詳細に引き出しています。ボウルの膨らみが大きいグラスは、熟成酒の複雑な香りを広げ、凝縮した味わいを楽しむにはうってつけですね。このオークド・シャルドネ(モンラッシェ)グラスはボウルの膨らみと口径の差が比較的小さく、お酒が一気に口中へ入ってくるような気がしますが、実は違います。緩やかな流れで少量ずつ舌全域にゆっくりと触れ、口中全体にじんわりと染み入るような味わいを堪能できるのです。香り、酸、ミネラル、旨味など、複雑で要素の多い熟成酒の個性を引き出すには最適。それにしても、この酒はうまいです!
君嶋:今、日本酒の蔵元数は減っていますが、生産されているお酒の味わいやタイプは増えています。個性溢れる酒造りで、日本酒のスタイルは格段に広がっているのです。海外から注目されていることも、造り手の刺激になっているようですね。
白水:そういう意味では、洋風のテーブルコーディネートを考えるなら、ワイングラスと似ている大吟醸グラスはよくマッチします。また和食のシーンなら、脚のない大吟醸グラスがしっくり合いますね。倒す心配もありませんし、和食器とのコーディネートも広がります。
君嶋:本当にいいお酒は、合わせる料理が変わっても美味しく飲めるんですよ。〝いい酒は料理のジャンルを超える〞と思います。
白水:はい、あらためて日本酒の世界の奥深さに驚かされました。ワインの世界を広げるのがグラスの役割だと思っていますが、日本酒でも同じですね。これからはグラスセミナーでも「日本酒もグラスで飲み分けよう」と伝えていきたいと思います。本日はありがとうございました。
今回の座談で話題になった「ワインとグラスの相性」を体験できる店舗はこちら