2019/06/25
Wine
冷やして美味しい、おすすめのオーストリア『夏ワイン』
昨年は『酸』に着目をして、夏におすすめの白ワインをご紹介しました。今年はオーストリアと日本の友好150周年記念イヤー。オーストリアで暑い夏に飲まれる白ワインをご紹介します。
オーストリアの緯度は北海道とほぼ同じ。とはいえ、ここ数年は夜になっても気温が下がらず、熱帯夜が続くことが多いです。エアコンが設置できない集合住宅では、涼をとれるのは扇風機のみ。日本以上に暑い夜を過ごすことも増えています。
Gelber Muskateller ゲルバー ムスカテーラー
暑い夏におすすめのオーストリアのワインは、Gelber Muskateller ゲルバー ムスカテーラー(英語ではイエローマスカット)。日本でもよくみかけるマスカットの一種です。
マスカットのイメージは特徴的な香りと甘さですよね。飲まず嫌いになる方もいらっしゃる品種ですが、ゲルバームスカテーラーは、そんな方にもぜひ飲んでいただきたいワインです。
世界各地で栽培される『マスカット』
ゲルバームスカテーラーは、イタリアのピエモンテ地方の甘口スパークリングワイン『アスティ』や、フランスアルザス地方の高貴4品種の1つである『ミュスカ』、ローヌ地方の酒精強化酒のボームドヴニーズなどに使われている『ミュスカブランアプティグラン(Muscat Blanc a Petit Grain)』といった世界各地で栽培されているマスカットの変異種です。ゲルバー(=ドイツ語の黄色)の名の通り、果実の完熟期に果皮が黄色く色づくブドウです。
マスカットは世界各地で栽培・醸造(日本ではほぼ生食用)されていますが、変異種のゲルバームスカテーラーはオーストリア以外で見かけることは少なく、オーストリアの地場品種とみなされています。
オーストリアには、様々な『ムスカテーラー』
オーストリアには『ムスカテーラー』と名のつくブドウで、ワイン用に認可されているぶどうが多く存在します。『ローター(Roter=ドイツ語の赤のRot由来の色調がピンクのマスカット)』や、『ゴールド』、黒ブドウに分類されている『ローゼン』、甘口ワインに使用される『ブリューテン(ドイツ語で花)』など、様々なムスカテーラーが存在しています。
第2次世界大戦以前のオーストリアでは、ワインの栽培は『混植混醸』といって一つの畑で多種多様な品種を栽培し、全てのブドウを同じタイミングで収穫して一緒に醸造するという手法が一般的でした。
現在も混植混醸は、ウィーンのヴィーナーゲミシュターサッツDACなど一部で素晴らしいワインを生み出しています。ですが、現在大部分の畑では、各畑に適したブドウ品種に植え替えられ、畑とブドウの個性を引き出したワインが造られています。
ゲルバームスカテーラーも混植混醸の畑によく植えられていたブドウです。その特徴的な香りが、ワインに華やかさを与えるのに一役買っていました。現在では、単一品種で上級辛口ワインに仕立てられることが多くなっています。
土壌を選ばない優等生?
ゲルバームスカテーラーの特性は、それほど土壌を選ばないということ。ブドウは品種ごとに相性の良い土壌があります。リースリングは礫岩や粘板岩といった硬質でやせた土壌、グリューナーフェルトリーナーは黄土やロームなど養分と水分が豊富な土壌と好相性です。
ゲルバームスカテーラーは比較的どんな土壌でも生育が可能であるといわれています。しかし、湿気が多いと病気やカビの被害にあいやすく、「優等生に見えるけれども実は手のかかる子」といったところでしょうか?
手はかかるが比較的土壌を選ばないからか、有名な生産者がゲルバームスカテーラーを少しだけ栽培し醸造していることも増えています。毎年造られるわけではないこともあり、ウィーンでも手に入れるのが難しく、素晴らしいワインが多いのです。
丁寧に育てられたゲルバームスカテーラーは、マスカットの香りに加えて、香水のムスクのようなニュアンスや、ナツメグのようなスパイシーさ、熟度が高いとバラの花びらのような華やかな香りを放ちます。アロマティック系品種であり、アルザスのゲヴュルツトラミネールと類似性を感じます。
早熟タイプと、完熟タイプ
ゲルバームスカテーラーは、早期収穫したブドウで造られるフレッシュフルーティーな軽めのタイプと、完熟で凝縮感が高いブドウで造られるフルボディタイプに二分されます。
近年増えつつあるフルボディタイプのすばらしさも語りたいところですが、今回のテーマはフレッシュタイプ。
ゲルバームスカテーラーは、本来遅熟であり完熟の収穫時期は10月中旬ごろです。フルボディタイプのワインはこの時期、もしくはさらに先の過熟の状態まで待って収穫されます。
フルーティなタイプの多くは9月の午前中に収穫され速やかにワイナリーに運ばれます。華やかな香りとフルーツ感を保つため、低温で酸化の影響を受けないようにステンレスタンクで発酵し、熟成はしない、もしくは短期熟成で市場に送り出されます。
早く収穫することで、酸味は高くさわやかすっきり、発酵によりアルコールへと変わるブドウに含まれる糖分が低いため、完全に辛口になるようすべての糖分を発酵させても、最終アルコール度数は11.5から12.5%程度が主流で極辛口の細く軽いボディに仕上がります。
マスカット、ムスク、ナツメグに加えて、レモンやライムなどの柑橘系、レモングラスのようなさわやかなハーブのニュアンス、ミネラル豊富な土壌で栽培されたものからは時によりほんのり塩味を、発酵前に低温で果皮浸漬を行ったものからは心地よい苦みを感じることもあります。基本的に熟成はさせず、若いうちに楽しむワインです。
食事にも合うゲルバームスカテーラー
ゲルバームスカテーラーは暑い日の駆けつけ1杯としてよく飲まれるだけでなく、お料理と楽しめるワインでもあります。
華やかなアロマティック品種は食べ物との相性も難しいと思われがちですが、前菜全般や野菜を多用したお料理、ハーブを添えたりソースに利用したりした白身の淡白なお魚やお肉とあわせると意外なマリアージュが楽しめます。
夏野菜の素揚げ・てんぷら、白身魚のお刺身やワイン蒸し、シンプルなグリル、蒸し鶏や豚肉の冷しゃぶなどを、柑橘類と、しそやみょうがなどの薬味や、柚子胡椒などを添えて「塩主体の味付け」をすることにより、今までと違ったマリアージュ体験できます。
入門編としておすすめは、シュタイヤーマルク産のクラッシックスタイル
オーストリア各地で造られているとはいえ、生産量が多くはなく国内消費が大部分を占めているため、入荷本数やアイテム数は少ないものの、日本でもゲルバームスカテーラーのワインは取り扱われています。
入門編としておすすめしたいのは、オーストリアの南部のシュタイヤーマルク産のクラッシックスタイルです。ソーヴィニヨン・ブランで有名な地域ですが、ゲルバームスカテーラーも秀逸なものが多く、すっきりさわやかなワインが好きな方に試していただきたいです。
リーデルのパフォーマンスシリーズで香りを楽しみましょう
ゲルバームスカテーラーを、リーデルの<パフォーマンス シリーズ>のグラスで楽しめれば、香りの魅力を最大限に楽しめると思っていたのですが、ちょうどぴったりのソーヴィニヨン・ブラン用のグラスがお目見えしました。
ゲルバームスカテーラーのワインを見かけたら、ぜひ試してみてください。
最後に耳寄り情報
気になるけれど買うのは…という方へ耳寄り情報です。
6月下旬から7月頭にかけて、オーストリアワインの生産者が多数来日し、東京、大阪、名古屋、京都などでプロおよび一般向けの試飲会が行われる予定です。
東京ではリーデルのグラス1脚付き、その他の都市では一般の方も参加可能なグラスセミナーも行われます。またとない機会、みなさまのご来場をお待ちしております。