2015/12/04
Column
18mmの違いで異なる「ピノ・ノワール」「オークド・シャルドネ」2つのグラスから見えた、くずまきワイン「蒼」の輪郭線とは。
ワイナート連載企画「日本ワインでグラスマッチング」も11回目を迎えました。今回のターゲット品種は「小公子」、岩手県くずまきワインさんの「蒼」というワインです。
ワインについては後述しますが、今回大変興味深かったのは、大久保醸造長をはじめとしたワイナリーの方々が選ばれたグラスです。「ブルゴーニュ品種系の3つのグラス」が選ばれました。
今回のブログでは、「ピノ・ノワールグラス」と「オークド・シャルドネグラス」について、もう1歩深く考察してみたいと思います。
目次
- 1 元は同じ卵型!?「ピノ・ノワール」と「オークド・シャルドネグラス」18mmの違いで「正反対」のグラスに?
- 2 カット位置の18mm の違いが何をもたらすのか?
- 3 オールドワールド、ニューワールド、2つの「ピノ・ノワールグラス」の違いは?
- 4 受容する日本ワインたちとワイングラスの関係性
- 5 ヤマブドウ交配品種「小公子」
(1)元は同じ卵型!?「ピノ・ノワール」と「オーク・ドシャルドネ」は18mm違いで「正反対」のグラスに?
今回くずまきワインさんが「蒼」に対して選んだグラスは下記の3アイテム
(1)<ヴェリタス> オールド・ワールド・ピノ・ノワール
(2)<ヴェリタス> ニュー・ワールド・ピノ・ノワール
(3)<ヴェリタス> オークド・シャルドネ
実はこの3つのグラス、すべて元の卵は同じなのです。
ちなみに、ステム(脚)の長さがそれぞれ同じ <ヴィノム> でグラスの高さを比較すると、公式発表の数字で18mm、約2cmのカット位置の違いになります。
(数字は、リーデル公式HPより)
<ヴィノム> ピノ・ノワール = 210mm
<ヴィノム> オークド・シャルドネ = 192mm
この <ヴィノム> の2つのブルゴーニュ系品種用のグラス、この約2cmのカット位置の違いだけで、元の卵は同じ(=見た目は兄弟分のような関係)でも、「グラスの機能面」では「全くの正反対なグラス」となってしまうのです。
(2)カット位置の18mm の違いが何をもたらすのか?
まず分かりやすい「ピノ・ノワール グラス」から見てみましょう。
このグラスにワインを適量(*)注ぎます。
(*)ボウルの最も膨らんだ位置から2cmほど下あたりまで注ぎます
この時、ボウル形状によって、グラスを相当深く傾けなければ、ワインがグラスから外には出てきません。
このことによって「ピノ・ノワール グラス」でワインを飲む時に、みなさんの顔は若干上むきとなります。顔が上を向くと、口中の舌先も若干持ち上がります。舌先がワインを迎えに行っているような状態ですね。こうして、ワインを口に含んだ瞬間、ワインは舌先に導かれやすくなります。
一方で、卵型を約2cm低い位置でカットしてある「オークド・シャルドネ グラス」の場合、同じく適量注がれたワインを口に含むためにグラスを傾けなければならない角度は、「ピノ・ノワール グラス」よりも浅くなります。2cmほど低い位置でカットされているので、液面からボウルの縁までの距離が短くなていますから、当然そうなります。
そのため「オークド・シャルドネ グラス」でワインを飲む時には、顔はほぼ水平、もしくは気持ち下向きの状態になります。この時、口中の舌先は若干下向きになりますので、ワインは舌先には触れずに、その少し奥まったところへ導かれます。
ワインを一番最初に舌のどの部分で感じるかが、ワインの印象を決定的に左右する一つの要因なのですが、「ピノ・ノワール グラス」「オークド・シャルドネ グラス」では、これが大きく異なってくるのです。それをもたらしているのが、ボウルのリム(飲み口部分)をどのレベルでカットしているか、ということに起因します。
「ピノ・ノワールグラス」と「オークド・シャルドネグラス」の舌上でのワインの流れ
(A)ワインを飲む時の顔の状態:
ピノ・ノワールグラス:顔がやや上向き
オークド・シャルドネグラス:顔が水平〜やや下向き
(B)ワインが一番最初に舌のどの部分に触れるか:
ピノ・ノワールグラス:舌先
オークド・シャルドネグラス:舌先を2cmほど飛び超えたあたり
(C)第1接触ポイントからの流れ:
ピノ・ノワールグラス:そのままストレートに
オークド・シャルドネグラス:横方向へ広がる
(3)オールドワールド、ニューワールド、2つの「ピノ・ノワールグラス」の違いは?:
「オールド・ワールド・ピノ・ノワール グラス(以下OW)」と「ニュー・ワールド・ピノ・ノワール グラス(以下NW)」 の違いもまた、1cmほど垂直に伸びた煙突状の飲み口にあります。「NW」 にこの煙突状の飲み口があることで、ワイン液面からボウルの縁までの距離が長くなり、その分、ワインを飲むためにグラスを傾けなければならない角度が深くなります。
このことから、「OW」に比べて「NW」 でワインを飲む時の方が(若干ではありますが)顔がより上向きとなり、ワインはより舌の先端部に集約され、ワインの流れは細く、香りも贅肉がそぎ落とされやすい方向に傾きます。
「NW」が、 <ヴェリタス・シリーズ> のラインナップで「ロゼ・シャンパーニュ」用とされていることも、この機能面の特徴から考えるとよく理解していただけるでしょう。
(4)受容する日本ワインたちとワイングラスの関係性
ACブルゴーニュの比較試飲で、「ピノ・ノワール グラス」「オークド・シャルドネ グラス」がどちらも高得点を得ることはまずありません。これは試さなくてもほぼ結果がわかります。「オークド・シャルドネ グラス」では、酸味が強まり、未成熟なタンニンが舌の後半にへばりつき、しかも果実味がごっそりと失われてしまう、そんな印象になるはずです。
逆に、上記のいずれかの印象をワインからけたことのある方は、グラスをチェックしてみましょう。「オークド・シャルドネ グラス」ではなくとも、ブルゴーニュのピノ・ノワールを「カベルネ/メルロ グラス」で飲んでいませんか? 思った以上に酸味やタンニンが強すぎると感じたら、グラスが原因かもしれません。
セオリーから言えば、同じワインに対して、機能的に正反対な二つのグラスが選ばれることはあまりないはずです。ところが、日本ワインでは往々にして「ピノ・ノワール グラス」でも「オークド・シャルドネ グラス」でも、ワインの表情こそ違え、それぞれに魅力を楽しむことができる。そのようなことが起こります。
今回の「蒼」を飲んでみても、その印象はさらに深くなりました。
ブドウ品種の特性としての、果実味や酸味やタンニンのバランス感とは別に、庄司が感じた多くの日本ワインに共通する輪郭線のにじみ、とでもいうべき、にじみのある境界線。そこからは、2項対立ではない、白黒はっきりつけない曖昧さが、多かれ少なかれ見受けられたような気がします。
ワインやその原料となるブドウも、長い歴史の中で育まれてきた日本風土の影響を受けてきました。そして、そのブドウを栽培しワインを醸造する人たちもまた、八百万の神に象徴される世界観を尊ぶ日本文化のなかで生まれ育ってきたのです。日本ワインには、一神教の世界観を基軸とする西洋発祥のグラス文化ではカバーしきれない余白が、大きな魅力として秘められているのではないでしょうか。
(5)ヤマブドウ交配品種「小公子」について
「小公子」は、澤登晴雄氏が産み出したヤマブドウ交配品種です。日本原生のヤマブドウにシベリア産ヤマブドウを交配して作られました。とても小粒なブドウで、高い糖度と色素が特徴です。
くずまきワインさんのワイン評にあるように、ワインをグラスに注いでまず感じるのは、果実香のフレッシュさではなく、干しぶどうなど水分が抜けた状態のドライフルーツ的なニュアンス。干しぶどうワイン的に、厚みのある果実の甘みもしっかりあります。グラスによって、フキ味噌のような「植物的」な風味を感じたり、逆にジビエに合わせたくなるような「動物的な野生っぽさ」を感じたりしました。合わせるお料理などによってグラスを使い分けたらとても面白いワインです。
醸造長の大久保さんは、すごく落ち着いた雰囲気の優しそうな印象。まだお若いながら、寡黙で芯の強そうな方です。
やっぱり、醸造に関わる方の人柄ってワインに出てくるんですよね。
先日、ソムリエ協会上信越支部の例会セミナーで久しぶりにご一緒しましたが、岩の原葡萄園の上村さんとお話ししても、改めてそう感じました。
(最初は口数少ないんですが、時間とともに熱く語り始めます)
くずまきでも、雨の降りかたが変わってきているそうです。
午後から夕方にかけて、さーっという雨がよく降るようになったのだとか。
先日、テロの余波が冷めやらぬパリでCOP21会議が開催されましたが、これも大きな気候変動の一つなのでしょうか。
「小公子」は、まだまだ日本での栽培面積も少なく、「小公子」主体で造られるワインも数少ないのですが、くずまきワインさんの「蒼」はその代表的なひとつです。選ばれたグラスをお持ちの方もそうでない方も、是非一度お楽しみいただいてはいかがでしょうか。
都内近郊でのくずまきワイン試飲会のお知らせ:
2月16日(火)~18日(木)はせがわ酒店東京駅地下グランスタ店 くずまきワイン試飲販売会
2月19日(金)~21日(日)はせがわ酒店 二子玉川店 くずまきワイン試飲販売会