2013/04/23
Column
【第2回】ワインの楽しみ方をひも解く新連載。ゲストは山本侑貴子さん。
ゲスト:山本侑貴子さん(食空間プロデューサー)
グラスとワインの密なる関係を、日本で広める事に尽力した人物として知られているウォルフガング・アンギャル氏が、毎回ゲストを迎え、Wine Enjoymentの世界をひも解きます。
第2回目のゲストは、食を中心としたライフスタイルを提案する食空間プロデューサーの山本侑貴子さん。
今回の対談は、グラスとフードマッチングの実験を試みながら、食とワインを通じた「おもてなしのこころ」の本質に迫ります。
相手を思う、おもてなしのこころ
アンギャル:食空間プロデューサーとして活躍中の侑貴子さんですが、実際の食空間づくりのポイントは何でしょう?
山本:ゲストに楽しんでいただけることでしょうか。日本でいう「おもてなし」のことですね。
アンギャル:「お客さまは神様です」ということですね(笑)。実は、ヨーロッパでは「お客さまはキングです」という似た表現があります。おもてなしのこころは、世界共通なんですね。山本さんは、おもてなしの場で具体的にはどういう点に注力なさっていますか?
山本:居心地の良さですね。華美にデコレーションし過ぎないこと。見た目の印象から香りや音にも気を使います。決して、もてなす側の押しつけにならないことも大事です。
アンギャル:同感です。おもてなしのこころは、ゲストが楽しくくつろげることですからね。ワインを楽しむシーンでも、そのようにあってほしいと願います。
五感を刺激するおもてなし
アンギャル:「リーデル」では「ワインエンジョイメント」というテーマを掲げて、ワインを楽しむために欠かせない要素を提唱しています。そのひとつが「サービス」であり「アトモスフィア(=雰囲気)」にあります。
山本:私も雰囲気づくりを大切にしていますね。例えば、空間の演出には光も大切で、キャンドルやダウンライトを使うことで料理の印象を際立たせることもあります。ワインエンジョイメントには、他にどういう要素がありますか?
アンギャル:「グラスマッチング」と「フードマッチング」ですね。ブドウ品種の個性をグラスの形状でより感じ取ってもらうと同時に、ワインとフードの好相性を際立たせることです。五感をフルに刺激することで、ワインを最大限に楽しんでもらえると考えています。
山本:なるほど、おもてなしのこころがワインエンジョイメントに宿っているんですね!
驚きのフードマッチング!
アンギャル:せっかくですから、フードマッチングを試してみませんか?ホワイトチョコレートとダークチョコレート、グラスはボルドーとブルゴーニュタイプ、そしてワインはカベルネ・ソーヴィニヨンとピノ・ノワールを用意しました。
山本:ええ、ぜひお願いします!チョコもワインにも目がないですから。(笑)
アンギャル:では、2種類のチョコにそれぞれのワインを2タイプのグラスで合わせてみましょう。まずホワイトチョコとピノ・ノワールをブルゴーニュタイプのグラスで。次にダークチョコと合わせて味わってください。
山本:あっ、このホワイトチョコとピノとの組み合わせ、ぴったりですね。チョコのコクと美味しさがワインによって引き立てられ、ワインとのハーモニーが感じられました。ダークチョコで味わうと、ビター感が強調されて、ワインとのバランスが崩れた印象ですね。
アンギャル:今度は、ダークチョコにカベルネと2種類のグラスを合わせてみてください。
山本:ダークチョコとボルドーグラスで味わうカベルネは、味わいのバランスがいいですね。チョコとワインの味わいがバランスよく楽しめます。ブルゴーニュグラスで飲むカベルネは、ワインとチョコの味わいが分離してしまいますね。
アンギャル:これがフードマッチングの一例です。リーデルのグラスはワインの個性を最大限引き出すと同時に、フードとの相性を引き立てます。
山本:本当ですね。フードマッチングには驚きましたし、改めてワインエンジョイメントという概念の素晴らしさがわかり、良い体験でした。
アンギャル:ありがとうございます。おもてなしのこころを大切にしながら、お互いにもっとワインの楽しみを広げていきましょう。
対談を終えて、アンギャル氏の一言
初めて日本に来てから28年。未だに日本の「おもてなし」のクオリティには感動させられます。山本さんのお話から、ゲストの方により楽しんでいただくヒントをたくさんいただきました!
【コラム】ワインと料理とグラスのバランス
今回のフードマッチングで用意したのは、ホワイトチョコレートとカカオ75%のダークのチョコレート。ワインはカベルネ・ソーヴィニヨンとピノ・ノワールの2本、グラスはボルドーとブルゴーニュの2タイプ。
ベストマッチは、「ホワイトチョコ×ピノ・ノワール×ブルゴーニュグラス」と「ダークチョコ×カベルネ・ソーヴィニヨン×ボルドーグラス」。
ホワイトチョコとピノの組み合わせでは、ピノの果実味ときれいな酸味がチョコの甘味とハーモニーを奏でるように口いっぱいに広がり、スイートな味わいをふくらませる結果となった。同じホワイトチョコとピノの組み合わせでも、グラスがボルドータイプになるとバランスが崩れ、酸味が強調されてしまった。
いっぽう、ビターチョコとカベルネの相性は、ボルドーグラスによってお互いが調和してふくよかなコクを引き出すことに成功し、ブルゴーニュグラスを使えば味わいのバランスを崩してダークチョコの苦味を強調させてしまうことになった。
ワインと料理とグラスのバランスを保つ「フードマッチング」効果を知れば知るほど、グラス選びでワインの楽しみを一段も二段も掘り下げることができるのである。
ゲストの選んだ1脚
自宅でも重宝しているのが<グレープ@リーデル シリーズ>の『リースリング/ソーヴィニヨン・ブラン』。白ワインはもちろん、シャンパーニュグラスとしても活用できる、おすすめの1脚です。ふっくらと香りが膨らみ、底のV字のくぼみにより、程よい泡立ちも楽しめます。(山本侑貴子さん)
山本侑貴子氏プロフィール
山本侑貴子さんYukiko YAMAMOTO
食空間プロデューサー。「ダイニングアンドスタイル」代表。食に関する店舗プロデュースなどを手掛ける。㈳日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ受章。最新刊『おもてなしの教科書』(ワニブックス)好評発売中。5月上旬に新刊発売予定。
photographs by Koumei KADOWAKI text by Go FUKUSAKI
ワイン王国
この記事は2013年4月5日(金)発売「ワイン王国 No.74」に連載されました。
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ワイン王国 PDF(1.2MB)