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2018/08/10

Column

華やかな香りを楽しむ リーデル 『大吟醸』 グラス|連載第2回

(左:福光屋 松井圭三氏/中:福光屋 福光松太郎氏/右:リーデル ウォルフガング・アンギャル)

「リーデル」のラインナップに『大吟醸』グラスが登場したのは、2000年のこと。金沢の造り酒屋「福光屋」の13代当主 福光松太郎氏と常務取締役の松井圭三氏、そして「リーデル・ジャパン」代表のウォルフガング・アンギャルが再会し、開発秘話を語った。

大吟醸の魅力を引き出すグラスを求めて

福光 「リーデル」は今年、『純米』グラスを発表しました。このプロジェクト、元は2000年に『大吟醸』グラスを開発した時に生まれたのでしたね。

アンギャル そうですね。日本酒用グラスのプロジェクトを立案したのは、1997年に「VINEXPO香港」の会場で松井さんとお会いしてからです。

松井 当時は、日本酒の酒器といえば主に陶器の盃、猪口(ちょこ)でした。これでは、華やかな香りが魅力の吟醸酒の特長が生かされません。またこれが若い人の日本酒への興味を削いでいた気もします。

福光 吟醸酒が注目されていた時でさえ、冷酒用のグラスは適したものがありませんでした。陶器の猪口や盃をそのままガラス製にしただけのものはありましたが。香りも取れない酒器で飲んでいても、日本酒の良さは伝わりませんよね。どうすれば新しいファンを獲得できるか、美味しさを伝えられるか、酒蔵仲間と懸命に考えました。結果、新しい酒器が必要だろうと考え、リーデルに相談したのです。

アンギャル 当時、私はまだ日本と本社のオーストリアを往き来していて、日本酒のことはよく知りませんでしたが、松井さんの熱意は伝わりました。しかしグラス作りは非常に多くのプロセスがあり、開発費用も莫大です。簡単にできるものではなく、大変なプロジェクトになるということを伝えたのを覚えています。その後私も日本酒の奥深さを知るようになり、ワインに通じるものがあるとわかり、意欲がわいてきました。

松井 最初は「本醸造」「大吟醸」「純米酒」「長期熟成(古酒)」という四つのカテゴリーそれぞれのグラスを作ってもらうつもりでした。グラスの機能が形状によって微妙に変わることを知らなかったので、もっと簡単にできるものだと思い込んでいました。

アンギャル 当社には世界中から開発の相談がありますが、すべてを受けるのは難しい。しかし日本酒グラスの開発は、思いきってスタートしてよかった。成功したと思います。オーナーのゲオルグ・リーデルも日本酒に興味を持ち、自ら開発に加わり熱心に取り組みました。多数のグラスで試飲するプロセスにも参加したんですよ。

福光 試飲を通じて、またリーデルの哲学“形状は機能に従う”を聞き、ワイングラスの形状には深い意味があることがよくわかりました。

アンギャル その時はリーデルの開発用グラス、100種類以上の形状から約60種類が選定され、テイスティングに進みました。そして37種類の形状まで絞ったのでした。

ワークショップを重ねて『大吟醸』グラスが完成!

福光 ゲオルク社長の意見では、日本酒は各カテゴリーにおいてもさまざまなタイプと特徴があるため、グラスを1種類に絞るのは難しいとのことでした。そこで四つのタイプの開発は諦めて、「大吟醸」のみ作ることになりました。次の段階で、蔵元の会「日本八(はっ)壷(こ)会」をはじめ、多くの蔵元や日本酒専門家の協力を得て研究を進め、6種類まで絞り込みました。

アンギャル さらにその後、開発に賛同した蔵元45社にその6種類のグラスを送り、比較試飲を重ね、のべ200人以上の専門家による厳しいテイスティングを実施しました。最終選考会は、在日オーストリア大使公邸で行いました。

福光 6種類のグラスは白ワイン用の卵形をしたものが多数でした。しかし、その膨らみのわずかな差が、香りの引き出し方に影響していましたね。

松井 大吟醸酒のフレーバーと繊細な味わいをいかに引き出すか。そこが最も大きな課題でした。

アンギャル 難題でしたね。例えばシャルドネ用のグラスとリースリング用のグラスでは、ボウルの高さがわずかに違います。約10ミリ低い『シャルドネ』グラスだと酸味が強調され、約10ミリ高い『リースリング』グラスだと甘味がやや強く感じられます。ボウルの形状が同じでも、わずかな高さの差で、味わいや香りの集まりかたに違いが出ます。大吟醸は日本酒グラスとして初めての試みでしたから、何がベストかなかなかわからず、苦労しました。

福光 『大吟醸』グラスは、白ワイングラスに見た目が似ていますが、違いはボウルの膨らみです。ワイン用は丸みが強調されていて、大吟醸用は飲み口に近いところが直線的。ちょうど効き猪口のように、横から見た時のシルエットが真っすぐに近い印象です。

アンギャル 福光屋さんと出会って3年。2000年に『大吟醸』グラスが完成し、以来初の専用グラスとして広く親しまれるようになりました。

福光 新しい酒器ができ、日本酒の魅力を伝えられる強力な道具を持てました。このグラスのおかげで、豊かな香りや繊細な味わいを大いに楽しめるようになったのはうれしいことです。しかし反面、これまで以上に酒の品質が厳格に問われるようになりました。当社の杜氏はこのグラスで酒を利きますが、時には欠点が強調されることもあります。このグラスは酒の要素を素直に表現するのです。そういう意味で、これから杜氏たちの実力は磨かれていくでしょうし、大吟醸造りの品質向上にも大いに貢献してくれると思います。

アンギャル 美味しいお酒作りに貢献しているとすれば、グラスメーカー冥利に尽きます。

大吟醸グラスの広がりが、酒文化を活性化する

福光 大吟醸グラスが広まると、酒の個性がより明確に伝わり、飲み手も好みのものを選びやすくなるでしょう。そうすると日本酒を飲む機会も増える。蔵元としては、うれしいわけです。(笑)

アンギャル 今では、日本酒は海外でも“SAKE”として知られていますから、大吟醸グラスで飲むのがスタンダードになるでしょう。レストランでもこのグラスをそろえるところが増えていますし、今年は『純米』グラスを発表したので、合わせて和食店でも導入してほしいですね。

松井 アンギャルさんに初めてお会いした時からもう20年になりますが、『大吟醸』グラスに続いて、待望の『純米』グラスが発表されました。今後も日本酒のタイプ別にグラスの開発を続けていただきたいです。酒文化が活性化しますしね。

アンギャル はい、しっかりと宿題として考えています(笑)。今は『大吟醸』『純米』グラスを使い分けてもらい、日本酒の魅力を大いに楽しんでもらいたいと思います。この二つのグラスは、それぞれのお酒の特長を最大限に引き出す機能が備わっています。

福光 大吟醸最大の魅力である「香り」を生かせる酒器がなかったころからみると、機能的な酒器に恵まれた今は本当にいい時代です。酒文化は海外でもますます知られるようになってきましたから、日本酒の楽しみ方も世界に広がってほしいですね。

アンギャル はい。そこにお酒がある限り、リーデルはそのお酒の魅力を伝える最適な道具を、これからも提供していきます。

[ 取材協力「福光屋」]
石川県金沢市石引2丁目8−3
TEL:076-223-1161
1625(寛永2)年創業。2001年にすべてを純米造りに移行。日本酒を国内外に発信している。長年培ってきた米醗酵技術を生かし、化粧品や食品開発にも取り組む。
   

 

  • Wolfgang AngyalWolfgang Angyal
  • リーデル・ジャパン代表取締役社長/リーデル社認定シニア・ワイングラス・エデュケイター

1965年オーストリアのチロル地方、クフシュタイン生まれ。 ホテルのサービスマンをしていた1985年、大阪で開催された第28回「技能五輪国際大会(World Skills Competition)」のレストランサービス部門に、オーストリア代表として参加。金メダルを受賞する。その後1年間、「辻学園 日本調理師専門学校」等で教授を務めるうち、日本の風土に惚れ込み移住を決意。オーストリアと日本をつなぐアイテムとしてリーデルグラスを選び、1989年よりその有用性を広める活動に専念する。2000年「リーデル・ジャパン」(現RSN Japan株式会社)代表取締役社長に就任。グラスとワインの密接なる関係を、最初に日本人に認識させた人物として知られている。
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