真のサービスを追求する”ひらまつイズム“
日本を代表する料理人の一人、平松宏之氏が目指す総合芸術としての料理"を体現できるグランメゾン”「レストランひらまつ」。扉を開けた瞬間からラグジュアリーな世界が待ち受ける。その風景の中で提供される料理、ワイン、そしてサービスの魅力を探った。
広尾駅からほど近い「レストランひらまつ」。出迎えてくれる笑顔のスタッフに高まる期待を抱きつつ、3階のメインダニイングへ。するとそこには名画や美しい調度品が並び、フロア全体にエレガントな世界が広がっている。伝統的なフレンチでありながら、進化を続けるのは料理、だけにとどまらない。フレンチの名店ならではの、ワインコレクションと最高のおもてなしがある。シェフソムリエの紫喜勇氏に、ワインへのこだわりとサービス哲学を聞いた。
「まず料理に合わせて提供するワインの品ぞろえを充実させています 。地下のワインセラーには500~550銘柄、ヴィンテージバリエーションを含めおよそ3000本のワインがストックされています。ほとんどがフランス産で、すべて飲みごろのものです」 と日紫喜氏。
「ワインを最高の状態でサービスしたい」という平松シェフの強い思いから、ワインを現地で買い付けするようになり、購入したワインは飲みごろになるまでじっくりと専用セラーで熟成させるのだという。「ワインを健全な状態で熟成させるには、蔵元から出荷した後の管理が重要です。温度変化や不必要な光や振動を与えないよう品質管理にこだわるがゆえ、ワインのほぼ9割を生産者から直接買い付けています。今では専用倉庫を含め全50万本以上をストックしています」
ここに他店の追随を許さないグランメゾンのワインサービスに対する取り組みがあり、究極の〝ひらまつイズム〟がある。
こだわりはワイングラスまで
「料理とワインは当然ですが、食器類から調度品まで、あらゆるものにこだわっています。お客さまに最高のサービスを提供するためには、それらが必要だと考えているからです。例えばワイングラスで言えば、全部で30種類くらいを用意しています。そのうち15種類はリーデルのワイングラスです。グラス選びは、ワインの魅力をいかに引き出せるかが基準。例えばボルドーの格付けワインであっても、ただチューリップ型のボルドー・グラスを選ぶのではだめです。生産者やヴィンテージによって香りの強さ、タンニンや熟成の状態を見極めながら、デカンタージュの判断をし、そのワインに適したグラスでサービスすることを考えます」と日紫喜氏は語る。
ソムリエのサービスでは、例えば2人でチームを組む場合、1人がデカンタージュの用意をしている間に、もう1人がワインの試飲をして状態を確認し、連携しながら最適のサービスセッティングを整えるという。もちろんフロアにいるすべてのソムリエが常に連携できる体制にあり、お客さまからは見えないところでも、最高のおもてなしができるように備えている。
「ひらまつには、サービスのマニュアルが一切ありません。一人一人のスタッフが、最高のサービスをどう提供できるかを常に考えて動いています。そうしなければお客さまの心に響くようなサービスはできないのです」
どこにも真似ができない真のサービスを追求する、ここにもひらまつイズムが息づいている。
グランメゾンの世界
「以前、平松と一緒にワインの買い付けでフランスを訪れた時、素晴らしい造り手に出会いました。そこのワインが気に入って購入したいと思ったのですが、すでに在庫はありませんでした。ところが造り手とシェフが言葉を少し交わすと、急遽手配してくれるというのです。このシェフなら、自分のワインを最高の状態で飲み手に届けてくれると、一瞬のうちに信頼してくれたようです。ほかに販売先が決まっていた分を融通すると即決してくれたのにはとても驚きましたし、シェフの料理を食べたことがなくても、わかる人には通じるのだと思いました」と日紫喜氏は述懐する。そこには、ワインと料理の本質を追究する2人のプロフェッショナルに共通する、揺るぎないパッションの共鳴があったのだろう。
「レストランひらまつ」では、熟成し飲みごろを迎えたワインには、それが注がれるにふさわしい最高峰のリーデルグラスが用意される。それは、この店の料理には、料理を芸術作品のように引き立てるリモージュ焼きの優美なプレートが似合うことに近い。グランメゾンには、そうした格式のバランスが取れた優美でラグジュアリーな世界が満ちている。伝統ある料理とワイン、そしてそれらの魅力を高めるプレートやワイングラスが用意され、最高のおもてなしが提供される……まさに至福の時間を最大限に楽しませてくれる世界でもあり、これこそがグランメゾンの神髄でもあるのだ。