真のグランメゾン

「ホテルニューオータニ」の1万坪の庭園を臨むレストラン「トゥールダルジャン」。
最高級フレンチとしての誉れが高く、レストランの歴史におけるグランメゾンの始まりといえる名店である。
パリ本店の、世界で唯一の支店として誕生した東京店は、今もグランメゾンの代表と賞賛されている。

「トゥールダルジャンのルーツは1582年にまで遡ります。東京店がオープンした1984年は、東京とパリが友好都市となった年で、当ホテルの開業20周年記念事業の一つでもありました。フランスと日本の食文化の架け橋という役割を担ってのオープンでした」と話すのは、シェフソムリエの野坂昭彦氏。
トゥールダルジャンという名前は、パリのセーヌ河畔サン・ルイ島の前にあった1軒の旅籠に由来する。その窓からきらきらと銀色に輝く塔が見えたことから、店の紋章にトゥール・ダルジャン（＝銀の塔）をあしらうことを国王に願い出たというエピソードがある。その紋章は、今も大切に受け継がれている。

また、東京のレストラン内には第2次世界大戦の戦火を免れた希少なヴィンテージワインや、アンリ4世の時代、フランスに初めて登場したフォークなど、歴史を物語る絵画や調度品が並び、博物館を彷彿させる厳かな空気が流れている。
「格調高い雰囲気の中、美味しい料理、素晴らしいワイン、最高のサービスを堪能していただけるのが、トゥールダルジャンなのです」
野坂氏の言葉の中には、ここで新しい文化が生まれ、歴史を重ねて来た誇りが感じられる。
トゥールダルジャンは唯一無二、そういう意味でも真のグランメゾンといえるのである。

マリアージュを広げる グラス選び

トゥールダルジャンのワインは、シャンパーニュをはじめ、白、赤、甘口の食後酒まで、およそ1000種類。地下セラーには約1万5000本がストックされている。
ワインはフランス産だけ、というこだわり。食前酒から食後酒、ワインの産地や品種別に「リーデル」のワイングラス20種類を使いわけている。
ブルゴーニュの「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」、ボルドーの5大シャトー、オールドヴィンテージのオーダーも少なくないだけに、グラスの選択が非常に大事だという。

「最高の状態でワインを提供するために、当店ではワインの個性を引き出すリーデルのグラスを選んでいます。ブルゴーニュとボルドーは特に多く選ばれるので、ブルゴーニュのピノ・ノワールグラスとモンラッシェグラス、そしてボルドーグラスは、トゥールダルジャンのロゴマークを入れた特注品を用意しています。さらにお客さまのご要望や料理に合わせて、1本のワインを数種類のグラスでサービスすることもあります。例えば、コースを1本のシャンパーニュで通したいというオーダーが入ったら、最初は温度を低めに設定し、小ぶりのグラスでサービスします。料理の進行に合わせてワインの温度を上げ、グラスも少し大きめのものに変えていく。1本のワインで、香りや味わいの膨らみなど、変化を楽しんでいただくのです」

ワインのキャラクター、ブドウ品種の個性を最大限に引き出す機能的なデザインと、美しいフォルムを持つリーデルのワイングラス。これを選ぶグランメゾンは多いが、アペリティフ（食前酒）、前菜、メインという料理の流れの中で、ワインの温度管理やグラス選別をきめ細かく行うことによって料理とのマリアージュの幅を広げていくサービスは、なかなか難しい。
ソムリエは、ワインリストから料理に合わせた1本を選び出す手伝いをするにとどまらず、お客さまの状況や要望に応えるグラスを的確に使い分ける。それもトゥールダルジャンならではのおもてなしだ。その細やかなサービスが当然のこととして受け継がれているところに、伝統あるグランメゾンとしてのエスプリを感じさせるのである。